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基礎(インフルエンザ)

細胞培養ワクチンの今後

成瀬毅志城野洋一郎

インフルエンザ Vol.12 No.2, 23-30, 2011

 細胞培養インフルエンザワクチンは,季節性ワクチンとして数社が認可を得ているが,安定生産には至っていない.最近,その製造における迅速性,柔軟性により,パンデミックワクチンの製造方法として注目され,改めて開発が加速されている.細胞培養ワクチンの今後は,①培養履歴がはっきりとした浮遊細胞を用いて製造されたウイルスや抗原から,②感染防御抗原を高度に精製し,③有効で安全なアジュバントを組み合わせたワクチン,を開発する方向に向かっていくと考えられる.
 また,通常の細胞培養ワクチンに加えて,遺伝子組換え抗原(HA,ウイルス様粒子)や植物細胞を用いたワクチンの開発も進んでいくであろう.

KEY WORDS
■細胞培養インフルエンザワクチン ■浮遊培養 ■マイクロキャリア培養 ■アジュバント ■パンデミック

はじめに

 1930年代にインフルエンザウイルスが発育鶏卵の漿尿腔内でよく増殖することが見出され,1940年代からインフルエンザワクチンを製造する際のウイルス培養基材として,発育鶏卵が用いられてきており,現在でもほとんどのワクチンは発育鶏卵を用いて製造されている.初期のワクチンは,漿尿液に放出されたウイルスを,ニワトリ赤血球を用いて精製し,ホルマリンで不活化した全粒子ワクチンであった.その後,シャープレス遠心機やゾーナル遠心機を用いた精製法が導入され,1960年代にはスプリットワクチン,1970年代にはサブユニットワクチンが開発され,現在に至っている1).
 現在,世界中における鶏卵を用いた季節性ワクチンの生産能力は,およそ8億ドースであり2),その生産技術は確立されていると考えてよい.では,なぜ細胞培養ワクチンが必要とされるのであろうか.それにはいくつかの理由があるが,特に大きな点は,製造の柔軟性であると考えられる.製造の柔軟性に関しては,卵での製造方法が確立されているとはいえ,ほかのウイルスワクチンと同様に,培養細胞を用いた製造が可能になれば,大きな進歩になるという考えが出ても不思議ではない.そのような観点から,あとで述べるいくつかのワクチンメーカーは,培養細胞を用いた季節性ワクチンの開発に,早くから取り組んでいた.その結果,数社が欧州でライセンスを得るに至ったが,現在までに安定して供給しているところはない.
 一方で,H5N1ウイルスによるパンデミックに対する懸念が台頭し,細胞培養ワクチンは,迅速で柔軟なワクチン製造という観点から,パンデミック対策の1つとしても重要であると考えられるようになってきた.実際に,われわれは2009年にH1N1ウイルスによるパンデミックを経験したが,わが国での鶏卵を用いた製造では,国民全員分のワクチンを製造することが困難であった.今回のパンデミック以前に,わが国ではH5N1によるパンデミックを想定して,後述する細胞培養ワクチンの国家プロジェクトが始められていたが,今回のパンデミック騒動で,柔軟な製造体制の必要性が再認識された格好となった.
 以下,細胞培養ワクチンの現状にふれ,改めて細胞培養インフルエンザワクチンに求められる要件を整理し,今後の方向性を議論してみたい.

1 細胞培養インフルエンザワクチンの現状

 細胞培養インフルエンザワクチン開発に用いられる細胞としては,哺乳動物細胞のほかに,トリ由来細胞,昆虫細胞,植物細胞などがあり,さまざまなタイプのワクチンが開発されている.表1に現在世界中で開発されている細胞培養インフルエンザワクチンをまとめた.

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