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鼎談(インフルエンザ)

インフルエンザの重症化とその対策

柏木征三郎木戸博佐藤圭創

インフルエンザ Vol.12 No.2, 9-21, 2011

柏木(司会) インフルエンザは毎年のように流行し被害が出ています.2009年は新型インフルエンザも出現し,小児は脳炎・脳症,成人と高齢者では肺炎での死亡もみられています.インフルエンザウイルス感染によって重症化するというのは,主に肺炎,それから脳炎・脳症かと思いますが,今日はこの重症化の機序の研究ですばらしい成果を上げておられる木戸博先生と佐藤圭創先生においでいただきまして,種々お聞きしたいと思います.先生方,お忙しいところを本当にありがとうございます.

<出席者>(発言順)
独立行政法人国立病院機構 九州医療センター 名誉院長
柏木征三郎

徳島大学疾患酵素学研究センター(KOSOKEN)
応用酵素疾患代謝研究部門 教授
木戸 博

九州保健福祉大学薬学部 教授
佐藤圭創

繊毛運動障害とインフルエンザの重症化

柏木 インフルエンザウイルスが感染して増殖すると,まず繊毛運動障害がきて,いろいろな二次感染が起こりやすくなると,よくお聞きします.木戸先生,このことについてお話しいただけますか.
木戸 インフルエンザウイルスが初感染で増殖できるところは,私たちの気道の粘膜上皮と一部腸管の粘膜の上皮です.粘膜上皮には2種類の細胞があり,1つは繊毛細胞,もう1つは分泌細胞です.その分泌細胞の分泌液のなかにはムコ多糖類がたくさん含まれています.ムコ多糖類のなかには,インフルエンザウイルスのレセプターを構成しているシアル酸が多く含まれますから,粘液が常に流れている状態では,インフルエンザウイルスはなかなか感染することができません.粘液は繊毛運動によって運ばれております.たとえば,麻酔をかけたり,挿管をするというようなときに繊毛運動も鈍くなります.そうすると,インフルエンザウイルスだけではなくさまざまな細菌感染が起きやすくなります.分泌細胞と繊毛細胞が障害されるとさまざまな気道の機能障害が起きてきます.
柏木 インフルエンザウイルスは,繊毛細胞だけでなくて分泌細胞にも感染するわけですね.
木戸 そうです.これはレセプターの分布が大いに関係するのですが,両方とも感染します.たとえば繊毛細胞にウイルスが感染すると,繊毛がふくらんで,それが剥がれていきます.感染して大体4日後ぐらいになると,ひどい場合には繊毛運動がきわめて低下するので,粘液が運ばれなくなります.そうすると,激しい咳をして,なんとか分泌液を押し出そうという反応が起こり始めます.これが体の反応の1つですね.
 この繊毛運動というのは,生理学的な生体防御機能の重要な構成成分をなしていると思います.
柏木 インフルエンザウイルスが,繊毛運動を抑えて病気を起こしてしまうのですね.
木戸 繊毛運動が障害されると,ウイルスが増殖する以外にさまざまな増悪機序が始まります.たとえば,細菌感染も同時に始まりますので,ウイルスと細菌の混合感染が重症化の重要なポイントになってまいります.
柏木 今のお話をお聞きしますと,高齢者にはとくに繊毛運動の影響があると思われますが,実際に高齢者を診察されている佐藤先生からしますといかがでしょうか.
佐藤 確かに高齢になると,繊毛運動自体の働きが落ちるという部分も当然ありますし,肺自体の構造も器質的な障害が高齢になればなるほど生じやすいという問題があります.それから体水分量は高齢者になると非常に減ってきます.繊毛運動というのは,要するに水分量が減ることによって動きが悪くなるのです.たとえるなら,川の流れが減ってくると,川のなかにゆらいでいる藻自体の動きもだんだん悪くなるようなものです.
 ですから,木戸先生がおっしゃるように,ウイルス自体が繊毛の動きを悪くするという問題と,それから,本人自体がもっている水分量が減ることによって動きが悪くなるという問題があります.その2つのファクターが加わることによって,高齢者の場合にはインフルエンザなどの感染症が増悪しやすくなり,なおかつ二次感染が起こりやすくなるのではないかと思います.
柏木 やはり高齢者の場合,ウイルス性肺炎や二次感染が起こりやすいというのは,それが1つの大きな原因ですね.
佐藤 また最近,インフルエンザウイルス自体が好中球やマクロファージ機能の障害を起こすといわれています.繊毛運動障害が起こって気道系の細胞の上皮にバクテリアがコロニゼーション(定着)した場合,それを貪食する細胞の機能が落ちれば当然感染症が起こりやくなります.もしかすると,高齢者がよけい肺炎になりやすいというところにも関係するかもしれません.
木戸 高齢者は,口が乾くとよくいわれますが,実際に分泌液量が減っています.分泌液量が減るということは,まさに生体防御物質の分泌量が減るわけです.これももう1つの大きな理由になると思います.

各種細菌とインフルエンザの関係

柏木 われわれのあいだには口腔の細菌がたくさんあるとウイルスの増殖が激しいという言い伝えがありますが,この方面の研究をなさっておられる佐藤先生に,われわれの体のなかにある細菌との関係などをお話しいただきたいと思います.
佐藤 口腔では歯周囲炎,歯槽膿漏の起炎菌のPorphyromonas gingivalisといった細菌が蛋白分解酵素を産生しています.
 Porphyromonas gingivalis以外に黄色ブドウ球菌やレンサ球菌,緑膿菌,最近では好中球のエラスターゼ,ダニの蛋白質分解酵素,それから炎症によって宿主細胞自体から出てくるプロテアーゼといったものが活性化を起こしてインフルエンザにより感染しやすくなるということがわかっています.
 つまり,口腔内をきれいにするということが,直接もしくは間接的にインフルエンザの予防に非常に役立つだろうと考えられます.
柏木 その場合,歯周病菌の役割というのはやはり,プロテアーゼをたくさん出して…….
佐藤 Porphyromonas gingivalisは炎症を引き起こします.その炎症を引き起こす1つのファクターとして蛋白質分解酵素が非常に重要だということです.木戸先生のご専門のところでありますが,蛋白質分解酵素が出てくることによって,周囲の組織に対して,炎症性の細胞を活性化したり,ブラジキニンの活性度を動かしたり,インスリン透過性を亢進させたりということが起こり,さらに歯肉が腫れたりということが起こりやすくなります.
木戸 歯周病菌には,いわゆるトリプシンと同じようにアルギニンやリジンといったアミノ酸を特に認識して切る酵素が2種類あります.トリプシンとは全く違う種類の蛋白質分解酵素なのですがこの2種類とも活性中心にシステインをもっているところがトリプシンとの違いです.九州大学の歯周病菌のプロテアーゼを研究している山本健二先生のグループと一緒に共同研究を行いまして,歯周病菌由来の2種類の蛋白質分解酵素は,インフルエンザのヘマグルチニンを切断してウイルスの感染性を増やすことはないことを明確にしました(未発表データ).しかし,これはネガティブデータでして,むしろ歯周病菌でなく,ほかの細菌,たとえば黄色ブドウ球菌などから分泌されるトリプシン型の酵素が働いているのだろうと思っています.現在,日本歯科医師会で,口腔内のどのような細菌がインフルエンザウイルスのヘマグルチニンを切るのかということを解析していまして,この研究班でほかの研究者と一緒に解析しているところです.

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