特集 機能性脂質・脂肪酸の多彩な生理活性と病態形成
短鎖脂肪酸による免疫・代謝制御
血管医学 Vol.17 No.2, 45-52, 2016
「Summary」われわれの腸内,特に下部消化管には,われわれの全細胞数に匹敵する40兆個程度の腸内細菌が棲息している.腸内細菌とその代謝物は,宿主の代謝や免疫システムに大きな影響を与える.宿主の未消化の食物繊維から産生される短鎖脂肪酸は,腸内細菌由来の代謝物の中でも主要な位置を占める.短鎖脂肪酸は,ヒトのエネルギー消費の最大で10%程度を賄う.さらに受容体を介して全身の組織に影響を与え,エネルギー代謝バランスを制御している.加えて,自然免疫系と適応免疫系の細胞にも働きかけ,炎症の抑制や宿主と腸内細菌の共生関係を維持するのにも重要な役割を果たしている.また,腸内の短鎖脂肪酸の減少は,腸に限らず多くの全身性の疾患との関連が疑われている.
「はじめに」腸内細菌の研究分野では,近年のメタゲノム解析,メタトランスクリプトーム解析などにより,腸内に存在する共生細菌群の構成や,それらが有する遺伝子情報が急速に明らかになりつつある.本世紀は,腸内細菌叢の構造とその機能が全面的に解明され,医療や日々の健康管理へと応用し得る時代の到来と言っても過言ではないと思われる.
「KEY WORDS」腸内細菌,短鎖脂肪酸,ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC),Treg細胞,G蛋白質共役型受容体(GPCR)
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