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長い時空を旅する血液

第5回 血流の意味論:鳥の眼,虫の眼,そして魚の眼で観る

丸山征郎

血管医学 Vol.13 No.2, 85-90, 2012

「長い時空を旅する血液」第2回1)において, 血液が血管内を循環すること, すなわち, ウィリアム・ハーヴィ(William Harvey, 1578~1657年)の「血液循環説」の確立とその歴史的背景について述べた. 1628年, 彼は「動物の心臓ならびに血液の運動に関する解剖学的研究」を著し, 「少量の血液が何度も何度も体内を循環する」という独創的な説を世に問いて, 血液循環説の確立という偉業を成し遂げたのである. 今からみると, 「ノーベル医学生理学賞」に間違いない卓抜した一大学説の提案であるが, 晩年の彼は政治に巻き込まれ, 幽門に近い不遇なものであったことを, ある種の感慨, すなわち人生とは真に「禍福は糾える縄のごとし」という故事を引用して紹介した. そして血液が循環することの意味として, ・運搬担体としての生理的役割:すなわち熱, 酸素(O2)や二酸化炭素(CO2), 摂取栄養物と代謝産物などや, ホルモン, 増殖因子などの運搬, ・クリアランス:エンドトキシンなどpathogen associated molecular patterns(PAMPs)の処理, また, 第2回には書き漏らしたが, おそらく体内で産生されたdamage associated molecular patterns(DAMPs)の体内除去, ・自から(血管系〉のホメオスタシスの維持, ・全身臓器のターンオーバーと再生維持:循環する血液の中には異状箇所を認識するパトローリング単球と修復する骨髄幹細胞など1セットが流れていること, そして異状と正常箇所の旗印としては内皮細胞が重要な役割を果たしていること, ・内皮細胞に「異状と正常」の役割を遂行させるためには, 常に血液が「せわしく」流れることで内皮細胞にかかるずり応力が重要であること, などについて述べた.

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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