抗酸化,抗糖化因子と血管医学
チオレドキシン結合タンパク質2とメタボリックストレス
血管医学 Vol.12 No.3, 77-83, 2011
酸化ストレス,高血糖やメタボリックストレスに対する防御機構の破綻が,血管内皮細胞の障害につながると考えられる.チオレドキシン(thioredoxin;TRX)は,酸化ストレスの関与するさまざまな病態において生体防御にはたらいている.また,TRXのネガティブな調節因子として報告したチオレドキシン結合タンパク質2(thioredoxin binding protein-2;TBP-2)は,αアレスチンファミリーに属する分子であり,転写シグナル制御,増殖抑制,アポトーシス誘導にはたらく.さらに,TBP-2はインスリンの分泌やインスリンの感受性を調節し,糖尿病の病態に関与する重要な分子であり,また脂質代謝調節や心血管系の病態にも関与することが明らかになってきた.
KEY WORDS
・TBP-2/Txnip/VDUP1 ・チオレドキシン ・糖尿病 ・メタボリックストレス ・酸化ストレス
はじめに
血管内皮細胞の障害を引き起こす要因として酸化ストレスが重要な要素であると考えられている.生体は酸化ストレスに対する防御系を有しており,グルタチオンペルオキシダーゼなどのグルタチオン系の分子とチオレドキシン(thioredoxin;TRX)系の分子が重要な役割を果たしている1).
また,糖尿病においては,大血管の動脈硬化が促進され,脳・心臓血管障害などの重篤な合併症を引き起こしている.したがって,血管障害に対する防御のために,糖代謝の分子機構の解明とその制御は重要な貢献となると考えられる.TRXのネガティブな調節因子として報告したチオレドキシン結合タンパク質2(thioredoxin binding protein-2;TBP-2)は2),ビタミンD3により誘導されるタンパク質vitamin D3 upregulated protein 1(VDUP-1)として報告された分子と同一のものであり3),また,thioredoxin interacting protein(Txnip)とも呼ばれる4).TBP-2は,絶食応答,脂質代謝調節,癌抑制,免疫炎症制御,血管ストレス調節など多彩な機能をもつ分子として世界的に注目を集めつつある.本稿ではおもにTBP-2の最新の知見について紹介する.
チオレドキシンと抗酸化
TRXは分子量約12kDaのタンパクで,基質タンパク質のジスルフィド結合を還元する活性をもち,またペルオキシレドキシンと総称されるチオレドキシン依存性の過酸化水素消去酵素と共役して過酸化水素を消去することにより,抗酸化因子としてはたらく(図1).
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