はじめに  ヒトゲノムの青写真がNature,Science誌に発表されてから,本年2月にちょうど10年が経過した1)2).この10年にシークエンス技術は汎用化され,従来のキャピラリー式とは異なる,パイロシーケンス式という方法が開発・採用され,2010年の時点においてはヒト全ゲノムを80万円で99.94%の高精度で解読できるところまできている.個人のゲノム,エピゲノムの違いが解析され,疾患の原因究明や診断・治療に応用される日も近いと考えられる.また,ゲノム解読ラッシュが生じ,多くのモデル生物について解読が完了し,報告された.これらのデータから,生物進化のダイナミクスが垣間見えてきた.  1958年にフランシス・クリックにより提唱された分子生物学の中心原理であるセントラルドグマは,その基本的な概念は今なお支持されているものの,その様相は大きく変わろうとしている.実際,従来ゲノムの大部分はジャンクであると考えられていたが,最近の研究により,ゲノムのほとんどの部分が転写されていることが明らかとなった3).さらにそれら転写産物の多くはタンパクをコードしないノンコーディングRNA(non-coding RNA;ncRNA)であった.ncRNAは低分子干渉RNA(small interferingRNA;siRNA)やマイクロRNA(microRNA;miRNA)など約20塩基ほどのものから,X染色体の不活性化にかかわるXistや,インプリンティングにかかわるAirなど,長大なncRNA(long intergenic non-codingRNA;lincRNA)も含まれており,RNA大陸とも称される大きな研究分野となっている.