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生体分子イメージングによる病態解析

生きた細胞・生物を用いた血管構築を理解するためのイメージング

福原茂朋張江暉長尾香里望月直樹

血管医学 Vol.12 No.2, 81-85, 2011

血管の構築過程は,4次元で解析することが重要であるが,単なるタイムラプスによる可視化だけではいかなる情報伝達機構が機能して,血管構築を制御しているのか明らかにできない.分子メカニズムを解明するためには,2次元・3次元での細胞培養系と,生体を用いた4次元での分子イメージングが重要となってくる.本稿ではゼブラフィッシュを用いた血管機能の可視化プローブによるイメージングを概説するとともに,3次元,2次元イメージングの利点も組合わせることで,血管構築調節機構に迫る研究を行いたいと考えている.

KEY WORDS
・イメージング ・ゼブラフィッシュ ・蛍光タンパク質 ・低分子量GTP結合タンパク質 ・細胞骨格

はじめに

 血管形成過程は,①中胚葉から血管芽細胞への分化決定,②血管形成による原始血管叢の形成,③血管芽細胞による背側大動脈(dorsal aorta;DA)と主静脈(cardinal vein;CV)の形成,④ネットワーク形成のための発芽・分枝,⑤管腔形成,⑥退縮,⑦周細胞,平滑筋細胞の接着による成熟過程からなる.
 発生過程における血管新生は④以降の現象ととらえることができる.実際に,血管としてイメージング可能なのは③以後の過程である.もちろん,転写の増加や細胞表面マーカーの発現量の増加により,血管芽細胞への分化,引き続いて血管内皮細胞へのさらなる分化も検出できる.しかし,イメージングによって,形態学的に明らかな臓器としての血管は,細胞が集まって中枢・末梢が判別できるような特徴をもってからであろう.このために③以降どのように血管が形成されていくのか,これまでに非常に精力的にイメージング技術が駆使されてきた(図1).

注目されるのは,イメージングによって新たに明らかにされた事実が血管形成・血球形成の概念に影響を与えるような報告となっている点である.DA形成は血管形成によるが,CV形成はDAからの血管芽細胞(静脈に分化決定された細胞群)によるものであることがゼブラフィッシュの血管発生のイメージングによって明らかにされた1).DA由来の造血幹細胞があることもタイムラプスイメージングにより明らかにされた2).
 血管形成のイメージング技術は,3次元でなければ血管を観察していることにならず,さらに時間軸を加えて伸長・退縮過程まで見ることが不可欠である.このために,マトリゲルを使ったin vitroの3次元血管構築課程の可視化が盛んに行われてきた.現在,血管形成研究では新生児網膜血管の経時的な観察(生体では観察できないので固定であるが)とゼブラフィッシュを用いた手法が盛んに用いられている3)4).前者は,生体ではないという欠点もあるが,ノックアウトマウスを用いることにより血管形成に不可欠な遺伝子の検討が可能である.後者はタイムラプスイメージングに強みがあるが,遺伝子破壊を血管内皮細胞特異的に起こすことなどは無理であり(マウスのコンディショナルノックアウト),アンチセンスモルホリノを用いた遺伝子発現抑制のとどまることが弱点ともいえる.変異体を用いたとしても,遺伝的に体全体に変異が起きているために,血管系の細胞自立的な異常が血管形成に影響を与えているのかを判断するためには,さらに工夫が必要となってくる.

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