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新しく解明されつつある血栓の増大と成長の分子細胞機構

血栓の退縮

血栓の運命を決める血餅退縮反応のメカニズムとその意義

一瀬白帝

血管医学 Vol.12 No.2, 59-73, 2011

Summary
血小板と凝固系は協働して生体を防御している.活性化血小板の一部は高凝固・低凝集能型であり,凝固因子を濃縮してトロンビンを生じさせ,血小板・架橋化フィブリン血栓を生成する.血小板膜の脂質ラフトに存在する糖タンパク質GPⅡb/Ⅲa も活性化されてフィブリンを結合し,下流のシグナル伝達経路を次々と活性化してアクトミオシン系を収縮させる.この細胞内の収縮力が活性型GPⅡb/Ⅲa を介して細胞外の架橋化フィブリン多量体に伝達されて,結合している多数の血小板同士が引っ張り合うので,血栓は著しく収縮する.これが血餅退縮であり,筆者は「活性型第ⅩⅢ/13 因子・架橋化フィブリン・活性型GPⅡb/Ⅲa 軸」仮説を提唱している.血餅退縮は血栓を安定化し,各種疾患における止血栓・病的血栓の運命を決定するので,抗血栓薬の分子標的となり得る.

Key words
◎ 脂質ラフト ◎ outside-in signaling ◎ 分子スイッチ ◎ 再出血と後出血 ◎「 活性型第ⅩⅢ/13因子・架橋化フィブリン・活性型GPⅡb/Ⅲa軸」仮説

はじめに

 21世紀は“血栓症の時代”である1).したがって,血栓症の制圧が国民の生命と健康を守る医療従事者と医学研究者の最大の課題である.そのためには,血栓の形成とその消長のメカニズムを,全体を俯瞰する一方で要素還元的にも理解する必要がある.
 血栓形成は複雑な過程である.いくつものシステムが連携したり,拮抗したりしながら絡み合い,そのなかで多数のタンパク質が複雑に相互作用している.現在では,in vivoでは細胞と血小板と凝固系が一体となって血栓形成にはたらいていると考えられるようになっている.すなわち,細胞基盤凝固モデル(仮説)である2).まず,血管外では周皮細胞や線維芽細胞,血管内では活性化あるいは傷害された単球/マクロファージ,血管内皮細胞上で少量のトロンビンが生成され,血小板を活性化する.次に,活性化血小板膜に凝固因子が結合して濃縮され,効果的に大量のトロンビンが生成されてフィブリンが形成されるのである(図1左上).

 本稿ではまず,血小板血栓形成過程について概説したのち,血小板・フィブリン血栓の収縮反応,すなわち「血餅退縮」に焦点を当てて解説する(興味のある項のみ読むことを推奨する).

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