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新しく解明されつつある血栓の増大と成長の分子細胞機構

生体分子イメージング手法でみる血栓形成過程と血小板機能

西村智長崎実佳

血管医学 Vol.12 No.2, 53-58, 2011

Summary
われわれは高速共焦点レーザー顕微鏡を用いた高時間・空間解像度の生体分子イメージング手法を新たに開発し,マルチカラーでの生体内での細胞動態や末梢組織の詳細な3次元構造の可視化手法を開発した.本手法により生体内の単一血小板の細胞動態が解析可能となり,多色化により複数の細胞種の連関も明らかになった.レーザー傷害による血栓形成モデルと組み合わせ,血小板機能に異常をきたす各種遺伝子改変動物における血栓形成過程を観察し,Lnkをはじめとする遺伝子改変と生体内での血小板機能の関係を明らかにした.さらに,ヒトiPS由来人工血小板を作成し,生体内での機能解析を行い,人工血小板が血栓形成に関与することを生体内で可視化手法により証明した.

Key words
◎血栓 ◎生体分子イメージング ◎血小板

なぜ生体イメージングなのか

 現在の血管・血栓症研究の主流は依然,分子生物学にある.分子生物学は個々の遺伝子機能のin vitroでの解析から始まり,遺伝子改変動物(ノックアウト・各種トランスジェニックマウス)を用いた各遺伝子のin vivoでの解析へと発展してきた.血栓領域における個体レベルでの検討では,従来は止血時間などにより解析されてきたが,あくまでも複雑なフィードバック機構により制御された遺伝子変化の最終的な結果をとらえるにとどまっていることが多く,生体内における血小板の機能や動態,血管内皮との相互作用などの詳細は不明であった.
 わが国の死因の上位を占める脳・心血管イベントの多くは血管の動脈硬化性変化を基盤としている.たとえば,血栓性疾患(アテローム血栓症)では慢性炎症病態を基盤とした動脈硬化巣の形成と,それに引き続いて起こる粥腫(アテローム)の破綻が病態形成に重要である.破綻部位においては,血小板は活性化され,血小板血栓が形成されるほか,凝固系も病態に関与する.しかし,動脈硬化巣の破綻は偶発的かつ高速に進行する病態であり,実験的にこれらをex vivo, in vitroで再現することは不可能であった.実際に,これらの一連の過程には血小板のみならず,各種炎症性細胞,血管内皮細胞とその障害,局所の血流動態(血流とずり応力)がかかわっている.このような多細胞からなる複雑病変とそのダイナミクスが病態の本質であり,これらを生体内で検討する手法が,病態理解のうえで求められており,その検討を可能にしたのがわれわれの開発した「生体分子イメージング手法」である.

肥満と慢性炎症生体分子イメージングでみる肥満脂肪組織

 近年,心血管イベントの危険因子として,内臓肥満とインスリン抵抗性を基礎とするメタボリックシンドロームが注目されている.内臓肥満は慢性炎症に伴い脂肪組織の再構築(リモデリング)と機能異常を引き起こすと考えられているが,その詳細は不明であった.われわれは,新たに開発したイメージング手法を脂肪組織に適応し,肥満脂肪組織で,脂肪細胞分化・血 管新生が空間的に共存して生じることを示した(図1)1).

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