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新しく解明されつつある血栓の増大と成長の分子細胞機構

血栓の増大・成長と白血球

伊藤隆史

血管医学 Vol.12 No.2, 49-52, 2011

Summary
怪我をした際,止血系と免疫系は連動して生体防御にあたる.たとえば,白血球は血栓の増大・成長を促すことによって,外来微生物を局所に封じ込めようとする.外来微生物の侵入を感知すると,単球は組織因子を発現するようになり,血液凝固反応を進める.また,好中球は好中球エラスターゼを放出し,組織因子経路抑制因子を不活化することによって,血液凝固反応を進める.このようにしてできた血管内血栓は,外来微生物の全身への拡散を防いでいると考えられ,生体防御的役割を担っていると考えられるが,その一方で,血流障害や組織障害を引き起こす原因にもなっている.

Key words
◎組織因子 ◎組織因子経路抑制因子 ◎NETs ◎好中球エラスターゼ

はじめに

 怪我をすると出血と感染が起こる.血管の健全性(integrity)が崩れると,血液の流出を許すことになり,皮膚のintegrityが崩れると,病原微生物の侵入を許すことになるからである.これらの被害を最小限にとどめるために,われわれの体は止血反応を立ちあげ,また免疫反応を立ちあげるのだが,このように,止血反応と免疫反応は,同じ局面で同じ方向性をもってはたらくことが多く,互いに密接にかかわり合っている.カブトガニの場合,外来微生物の侵入を感知したヘモサイトは脱顆粒を起こし,これによって凝固塊の形成が促され,体液の喪失と外来微生物のさらなる侵入を防いでいる1).つまり,止血反応と免疫反応は別々の反応系ではなく,ひとつの共通の系として存在しているのである.また,脊椎動物の場合,専門性が細分化され,免疫反応はおもに白血球が,止血反応はおもに血小板が担当しているが,白血球も血栓形成に関与しているし,血小板も免疫反応に関与している.さらに,進化論的には,止血反応の液性因子である血液凝固因子は,免疫反応の液性因子である補体と同起源と考えられていて,ひとつの共通の系が2つの系に分化していった様子がうかがえる2)3).本稿では,生理的血栓形成ならびに病的血栓症において,血栓の増大・成長過程に白血球がどのようにかかわり,そこにどのような意義があるのか,これまでの知見をもとに考察してみたい.

血栓の増大・成長と単球

 血液凝固反応は凝固第Ⅶ因子と組織因子が結合することでスタートする.第Ⅶ因子は肝臓で産生され,血液中を循環している可溶性タンパク質で,組織因子は血管外膜および中膜の線維芽細胞,周皮細胞,平滑筋細胞などの細胞表面に発現している膜結合型タンパク質である.血管内皮細胞のintegrityが保たれている状態では,血液中の第Ⅶ因子と内皮下組織の組織因子は隔離されているため,血液凝固反応は始まらないが,怪我などによって血管内皮細胞が損傷を受けると,両者のあいだの隔壁は失われ,血液凝固反応がスタートする.
 一方で,単球や血管内皮細胞のように常時第Ⅶ因子と接している細胞も,刺激に伴って組織因子を発現するようになる.この組織因子発現を誘導する分子としては,外来微生物の構成成分(pathogen-associated molecular patterns;PAMPs)や壊死細胞由来の細胞内成分(damage-associated molecular patterns;DAMPs)などが知られている(図1).

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