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生活習慣病と癌の基盤病態としての慢性炎症

癌と炎症

大島正伸

血管医学 Vol.12 No.1, 67-72, 2011

Summary
非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を服用している集団では,発癌リスクが低いことが疫学的に示されている.NSAIDの標的分子であるプロスタグランジン合成酵素COX-2は,炎症と癌の双方で発現誘導されており,その下流で合成されるPGE2が発癌に重要な役割を果たすことがマウスモデルを用いた遺伝学的解析で明らかにされている.また,COX-2/PGE2経路依存的に形成される癌の炎症性微小環境では,マクロファージが浸潤・活性化し,産生されるTNFαは炎症シグナルネットワークの増強や,癌細胞のWntシグナル亢進などの作用により発癌を促進する.さらに,COX-2/PGE2経路と常在菌による感染刺激の相互作用が,腫瘍組織での炎症反応発生に重要であることが明らかになってきた.

Key words
◎COX-2 ◎PGE2 ◎マクロファージ ◎胃癌 ◎大腸癌

はじめに

 炎症と癌組織では,いくつかの類似した生体反応が観察される.すなわち,マクロファージなどの骨髄由来細胞が浸潤して血管新生が亢進し,感染が伴う場合は自然免疫反応も活性化されて,サイトカイン─ケモカインネットワークが構築される.傷害を受けた組織では,このような生体反応が幹細胞の増殖を誘導して組織のリモデリングを促進する.一方,癌組織では,炎症性微小環境が癌細胞の増殖を亢進してしまう.正常組織ではリモデリングが完了すれば上皮細胞の増殖は止まるが,持続的な自己複製能を獲得した癌細胞は増殖を続けて腫瘍を形成する.発癌における炎症の重要性について,以上のように考えられているが,一方で炎症性微小環境における腫瘍細胞と間質細胞の相互作用や,その分子メカニズムにはいまだ不明な点が多い.近年のマウスモデルを用いた遺伝学的解析から,シクロオキシゲナーゼ-2(cyclooxygenase-2;COX-2)/プロスタグランジンE2(prostagrandin E2;PGE2)経路を中心とした炎症シグナルが,発癌過程でも重要な役割を果たすことが明らかにされてきた.

発癌におけるCOX-2とPGE2

 癌における炎症反応の分子機序として,COX-2/PGE2経路が最初に着目されて研究が進められた.プロスタノイド合成の律速酵素であるCOX-1およびCOX-2は,アラキドン酸を基質としてPGH2を合成する.PGH2は,組織特異的な変換酵素によりPGE2を含むさまざまなプロスタノイドに変換される.恒常的に発現するCOX-1は,さまざまな組織の恒常性に必要なプロスタノイド合成を行うのに対して,COX-2は炎症および癌組織で発現誘導される.COX阻害作用のある非ステロイド系抗炎症薬(non steroidal anti-inflammatory drug;NSAID)を服用している集団では,胃癌・大腸癌の発生率が低いことが疫学的にも示され,COX-2依存的なプロスタノイドが発癌に関与していると考えられた.
 多くの大腸癌組織ではAPC遺伝子変異が認められ,それに起因したWntシグナル活性化が大腸癌発生の引き金となる.実際にAPC遺伝子ノックアウトマウス(ApcΔ716マウス)では,腸管全域に数百のポリープを自然発生する1).ApcΔ716マウスの腸管腫瘍組織ではCOX-2発現が誘導されており, 重要なことに,COX-2遺伝子ノックアウトによりApcΔ716マウスの腸管腫瘍数は顕著に減少する(図1)2).

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