はじめに  近年,緑内障をめぐる国際的認識は大きく変貌し,これまでの眼圧を中心に据えた診断法から一転して眼底所見による緑内障性視神経症(glaucomatous optic neuropathy)の特定が決め手とされた.一方,眼圧は診断基準から除外されるようになったものの,治療上は眼圧を下げることが最も有効な手段であることがあらゆる観点から強調されている.このような結論は近年実施された国内外の緑内障疫学調査結果によるもので,現在,2000年実施の多治見スタディ1)が“日本最初の疫学調査”として日本緑内障学会で認定されている.その主たる内容は正常眼圧緑内障(normal tension glaucoma:NTG)を含めた原発開放隅角緑内障(primary open angle glaucoma:POAG)が全体の3.9%に達し,NTGがそのうち92%を占めるというものである.最近,「臨床眼科」の緑内障特集号のサブタイトルに“グレイゾーンを越えて”と記されているが,緑内障の病態認識にはいまだ理解しがたい部分があることを意味している.特に一般の認識を困難にしているのはこれまでの眼圧中心の概念との整合性に加え,どのような不具合があったのか実態の経緯が一般にはほとんど知らされていないのが現状である.  これまで緑内障に関する知識や研究の方向性はすべて欧米先進国の成果を後追いする形で進められてきた.しかしながら,今回の緑内障概念の唐突ともみえる大きな変更には日本発のエビデンスを無視して語ることはできない.