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Glaucoma Q&A

緑内障手術治療の適応

唐川綾子間山千尋

Frontiers in Glaucoma No.41, 58-63, 2011

Q1 
両眼の点眼治療を行っているNTG患者.眼圧は低いものの視野障害が進行するので手術の検討を,と紹介されてきました.プロスタグランジン関連薬,β遮断薬,炭酸脱水素酵素阻害薬の3剤を点眼しており,初診時の眼圧は両眼とも14mmHgとあまり高くはないようです.すぐに手術を考えるべきでしょうか?

A1

 緑内障手術を行っている施設では毎日のように受診されるケースです.手術の適応を決めるには,症例ごとの背景に合わせた柔軟な判断も必要ですが,客観的データに基づく一貫した判断基準をもつことも重要です.

眼圧は本当に高くないのか?

 まず,最初に考えるべきポイントは,14mmHgという眼圧が低いと言えるのかどうか,です.緑内障診療ガイドラインにも述べられているように,眼圧下降治療の結果は眼圧が正常化したかどうかではなく,目標眼圧の達成の可否,あるいは毎回の受診日ベースでの目標眼圧の達成率で評価することが一般的です.治療前の眼圧の低い正常眼圧緑内障を考えると目標眼圧は下降率で定義されることが一般的であり,点眼治療では臨床的に20%程度の下降率が一つの目安となると考えられます.欧米で行われた複数の大規模臨床研究1)2)において,この基準の目標眼圧を達成できた群で緑内障の進行が抑制されることが明らかになっていることが,この設定値の裏付けとなっています.下降率による目標眼圧の設定には治療前眼圧が必要であるため,情報がなければ点眼治療を一時中止して無治療時の眼圧を再評価することも考慮すべきでしょう.一方,視野障害が高度であったり治療中の眼圧も高かったりして点眼の中止にリスクがあると判断される場合には,経験的な報告などに基づいて,14mmHg,12mmHg,あるいはより低い眼圧レベルの値を目標眼圧として設定することもあります.
 眼圧には日内変動に加え,異なる検査日でのより長期の変動,季節変動などがありますが,就寝時の姿勢変化も加味した健常眼での日内変動は,平均8.6mmHgになるとも報告されています3).この日内変動および他日での長期変動は緑内障眼,特に落屑緑内障ではさらに大きいと考えられ,大きな眼圧変動が視野障害進行の有意なリスクであることは複数の臨床研究で認められています.したがってこの症例においても,眼圧データを蓄積して変動を評価することが重要であり,外来診療時間内で測定時刻を変えての測定や,あるいは入院での24時間の日内変動の情報が有用な可能性がありますが,非日常的な環境下での日内変動の測定精度と再現性についてはやや問題もありますので,患者の負担も考慮して実施すべきでしょう.
 眼圧変動に関しては,患者の治療に対するアドヒアランスも大きなポイントになります.いくら診療時に眼圧が安定していても,点眼を忘れる日がしばしばあれば眼圧の大きな変動につながります.アドヒアランスを正確に評価することは困難ですが,レーザー治療や手術によって点眼薬の数を減らすことができれば,アドヒアランス不良による潜在的な眼圧変動のリスクを減じることができると考えられます.
 また,眼圧の測定値自体についての信頼性も確認する必要があります.ゴールドマン圧平眼圧計を用いて適切な手技により眼圧を測定することが基本ですが,測定値に影響を与える代表的な因子として,角膜の厚さや曲率半径,乱視,剛性があります.角膜厚の与える影響は報告により異なるものの,およそ25μmあたり1mmHgとの報告があり4),比較的容易に測定することができるので,緑内障患者に関しては中心角膜厚を測定しておくことが望ましいと考えられます.眼圧測定値が大きく低下するLASIKなどの屈折矯正手術後の患者は今後増えることが予想されますが,そのようなケースでも角膜厚を測定していれば手術の既往を見過ごすようなことが避けられます.
 手術を含めた治療方針を決定する前には,まずは眼圧に影響し得るこれらの要素を十分に確認することが重要です(表).

薬物治療は十分に行われているか?

 次に考えるべきことは,現在行われている点眼治療が十分な効果を発揮しているかどうか,です.点眼の調整によってさらに眼圧を下げられる可能性を探る必要があります.プロスタグランジン関連薬,β遮断薬,炭酸脱水素酵素阻害薬の3剤の併用が,現在利用可能な点眼薬の一般的な組み合わせであり,全身性の副作用や投薬の労力を考えれば炭酸脱水素酵素阻害薬の内服や4剤以上の点眼薬を長期に行うことはなかなか困難です.最も効果が高いと考えられるプロスタグランジン関連薬については,一定以上の眼圧下降効果が得られないいわゆるノンレスポンダーが10%ほど存在すると考えられています.そのような場合でも,他のプロスタグランジン関連薬では大きな眼圧下降効果が得られることがあり,別系統の薬剤への変更や追加の前に,2~3種類のプロスタグランジン関連薬を試してみる必要があるでしょう.β遮断薬は長期使用により耐性の生じることがあります.また,眼圧下降機序や眼圧の日内変動から,プロスタグランジン関連薬は夜に,β遮断薬は朝に点眼することで十分な効果が発揮されると考えられています.また,近年では利用頻度の減ったピロカルピンも若年性の緑内障などでは有効なことがあります.
 点眼治療に対するアドヒアランスを確認することも重要です.最近,わが国でも利用可能となった配合剤は,理論的には単剤の併用よりも眼圧下降効果の劣る可能性がありますが,点眼薬の変更による動機づけ,薬剤数の減少によりアドヒアランスが改善されれば,眼圧下降効果が大きくなることも十分考えられます.

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