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日本緑内障学会

第21回日本緑内障学会 データ解析委員会特別セッション 久米島スタディー―久米島町における失明原因―

澤口昭一

Frontiers in Glaucoma No.41, 32-33, 2011

 視力障害者の有病率に関して,国や地域によって大きな差異が認められるが,その理由として,社会,経済,遺伝,気候などの違いが示唆されている.そこで,低視力・失明者に対して実施された多くの国際的な疫学調査では,同一国においても都市部と地方の2地域に分けて検討・報告されている.

 こうしたことから,名古屋中心部まで鉄道で30分,名古屋のベッドタウンとして栄える多治見市(都市部)で実施された多治見スタディデータと,那覇まで飛行機で30分(5~6便/日),船で4時間(2便/日)を要する東シナ海に浮かぶ小さな離島である久米島(地方)で実施された久米島スタディデータを比較し,諸外国データを踏まえながら,低視力・失明の有病率(人・眼単位)やその原因を検討した.なお,人単位では視力の良いほうを,眼単位では両眼を採用した.
 その結果,久米島スタディおよび多治見スタディの人単位の失明者は14名と4名で,各々の失明率は国際的な人口標準で補正すると0.14%と0.11%,実数では0.39%と0.14%となり,久米島は多治見に比べ失明者が約3倍多いことが推測された.また,久米島スタディおよび多治見スタディの人単位の低視力者は21名と10名で,各々の低視力率は国際的な人口標準で補正すると0.39%と0.25%,実数では0.58%と0.39%となり,久米島は多治見に比べ低視力者が約1.5倍多かった.
 これら失明率および低視力率を諸外国の疫学調査と比較すると,先進諸外国に比べて多治見スタディは失明率,低視力率ともに圧倒的に低く,久米島スタディは失明率が同等,低視力率がやや低いという結果であった.この理由として,医療機関へのアクセスが悪い地方であっても,日本では諸外国に比べて医療水準の均一化が図られていることが考えられた.
 人単位での失明の原因疾患については,久米島スタディでは遺伝性の網膜色素変性症が最も多く(6名),次いで緑内障(4名),網膜剥離(2名),白内障(1名)であったのに対して,多治見スタディでは網膜色素変性症,近視性黄斑変性,視神経萎縮(各1名)などが認められ,緑内障,網膜剥離,白内障はみられなかった.また,人単位での低視力の原因疾患としては,久米島スタディでも多治見スタディでも白内障は同等にみられたが,久米島スタディでは網膜色素変性症や緑内障,角膜混濁,加齢黄斑変性症,糖尿病網膜症が多く,多治見スタディでは近視性黄斑変性が多かった.
 眼単位の失明および低視力は,久米島スタディでは102眼と119眼,多治見スタディでは46眼と76眼に認められた.眼単位の失明の原因疾患として,久米島スタディでは白内障が最も多く,多治見スタディでは近視性黄斑変性症が圧倒的に多いという違いが認められた(図).

一方,眼単位の低視力の原因疾患としてはいずれのスタディでも白内障が最も多かった.一方,久米島スタディでは角膜混濁や加齢黄斑変性症,糖尿病網膜症が多いのに対して,多治見スタディでは緑内障や近視性黄斑変性などが多いことが判明した.
 そこで,失明の主要疾患である白内障,緑内障,網膜色素変性症,近視性黄斑変性症について考察を加えたところ,白内障は久米島スタディでも多治見スタディでも低視力原因疾患(人・眼単位とも)の1位であったが,失明原因疾患としては,久米島スタディでは1位であったが多治見スタディでは5位であった.この結果は,医療機関への受診が困難で,収入が本土の半分程度しかない久米島では,両眼の白内障患者であっても,片眼のみの手術で満足していることが少なからずあるからではないかと考えられた.
 緑内障に関しては,多治見スタディでは失明者が1名もみられなかったのに対して,久米島スタディでは4名みられた.その背景には,久米島スタディでは多治見スタディに比べ,両眼失明する可能性が高い閉塞隅角緑内障の有病率が他のアジア系(モンゴル,シンガポールなど)人種と同様にかなり高率であることが考えられる.実際に,閉塞隅角緑内障のうち2人は,急性閉塞隅角緑内障により失明に至っている(表).

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