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抗凝固療法 Update

抗凝固療法と出血性副作用およびその予防策

天野達雄豊田一則

脳と循環 Vol.16 No.3, 45-50, 2011

SUMMARY
 抗凝固療法の出血性副作用の実態と,その対応策について解説する.急性期脳梗塞に対するヘパリンの投与は脳梗塞再発抑制の効果があるが,出血性合併症の発症率も上昇するため留意する必要がある.慢性期抗凝固療法としてワルファリンが投与されるが,出血性合併症を抑制するには適切な強度での投与が必要である.抗凝固療法中の出血性合併症や休薬が必要な場合の対応についても解説する.近年,出血性イベントの発症を予測するHAS-BLED スコアが提唱され,簡便に出血リスクを予測できるとされる.新規抗凝固薬であるダビガトランは,ワルファリンと比較して頭蓋内出血の発症率が低く,期待される.

KEY WORDS
抗凝固療法/出血性副作用/HAS-BLED スコア/ダビガトラン

抗凝固療法と出血性副作用について

 心原性脳塞栓症患者の脳梗塞再発予防に対して抗凝固療法が有効であることは,本特集の他稿で示されたとおりである.しかし,抗凝固療法の施行中に出血性合併症が発生することも少なくない.
 急性期脳梗塞に対してヘパリンやアルガトロバンが投与されることが多い.血栓溶解療法と同様に,急性期には出血性梗塞の危険が高く,留意する必要がある.発症48時間以内の脳梗塞患者を対象に14日間の未分画ヘパリン(5,000~12,500単位を1日2回皮下注)の有効性を調べたInternational Stroke Trial(IST)1)では,ヘパリン投与による14日以内の脳梗塞発症率低下(ヘパリン群2.9%対非投与群3.8%:絶対リスク減少0.9%)が同期間の頭蓋内出血発症(1.2%対0.4%:絶対リスク増加0.8%)で相殺され,頭蓋内出血以外の重篤な全身出血もヘパリン投与によって増えた(1.3%対0.4%).ISTを含む24試験,23,748例を対象としたCochrane Review のメタ解析によると,ヘパリンを含めた注射および内服抗凝固療法は急性期脳梗塞患者の再発を防ぐ代わりに(オッズ比:0.76,95%CI:0.65~0.88),症候性頭蓋内出血をより多く引き起こした(オッズ比:2.55,95% CI:1.95~3.33).肺塞栓症の頻度は減少したが(オッズ比:0.60,95% CI:0.44~0.81),頭蓋外出血性イベントは増加した(オッズ比:2.99,95%CI:2.24~3.99).また,抗凝固療法によってすべての死亡(オッズ比:1.05,95%CI:0.98~1.12),死亡または要介助(オッズ比:0.99,95%CI:0.93~1.04)はいずれも減少しなかった2).
 その他の出血性合併症としては,急性期脳卒中患者には消化管出血の合併が多く,特に高齢者や重症の脳卒中で多い傾向にある.脳梗塞患者の場合,前述のとおり抗凝固療法が行われている場合が多く,消化管出血が重症化することが懸念される.脳卒中治療ガイドライン2009 3)では,「高齢や重症の脳卒中患者では特に消化管出血の合併に注意し,抗潰瘍薬(H2受容体拮抗薬)の予防的静脈内投与が推奨される」と提唱している.
 慢性期の脳梗塞再発予防では,抗凝固療法としてワルファリンやダビガトランの投与が行われる.後述のとおり,ダビガトランはワルファリンと比較し,特に頭蓋内出血の発現率が低く,出血性合併症の低減が期待できる.国内外の臨床試験や観察研究でのワルファリン服用患者の出血発症率を図1に示す4)- 13).

頭蓋内出血の発症率はおおむね年間0.1~1%に分布している.また,抗血小板薬との併用も出血性合併症の頻度を高める.図1のうち,唯一わが国からの報告であるBleeding with Antithrombotic Therapy(BAT)研究10)では,ワルファリン服用患者の重篤・重症出血合併症発症率は年間2.1%,うち頭蓋内出血発症率は0.62%で,ワルファリン・抗血小板薬併用患者ではそれぞれ3.6%,0.96%であった.ワルファリン内服患者における頭蓋内出血の危険因子を表1にまとめる14).

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