抗凝固療法 Update
心房細動の脳梗塞発症リスクの評価
脳と循環 Vol.16 No.3, 29-32, 2011
SUMMARY
心房細動患者の心原性脳塞栓症を予防するためには,ワルファリンなどの抗凝固薬が有効である.ただし,出血性合併症のリスクがあるため,その適応決定には塞栓症リスクを層別化する必要がある.この目的のためにCHADS2スコアが有用である.CHADS2スコア2点以上では抗凝固療法が推奨されるが,それより低リスクの症例ではより多くの危険因子を考慮に入れたCHA2DS2-VASc スコアでさらに層別化して適応を判断する必要がある.
KEY WORDS
心房細動/心原性脳塞栓症/抗凝固療法/CHADS2/CHA2DS2-VASc
はじめに
心房細動は脳梗塞の明らかな危険因子である1)2).非弁膜症性心房細動(non-valvular atrial fibrillation:NVAF)患者の脳梗塞発症率は心房細動のない人々の2~7倍であるといわれており,リウマチ性弁膜症を合併した場合はさらにリスクが高い.心房細動は加齢とともに増加する傾向があり,わが国における高齢化とともにその有病率は上昇している.これに伴い心原性脳塞栓症も増加しており,現在その原因疾患の半分以上を心房細動が占めている.心房細動からの心原性脳塞栓症発症を予防するためには,ワルファリンなどの抗凝固薬が有効である.抗血小板薬は有効性が低いか認められず,その使用はワルファリン禁忌例にのみ考慮される.一方,ワルファリンは食事や薬物の影響を受けやすく,常にモニタリングが必要である.また,出血性合併症の危険性もあり,時に重篤な事態となる.このようなことから,ワルファリンによる塞栓症発症予防のメリットを確定させるためには,NVAF症例では塞栓症発症リスクの層別化を行い,適応を考慮する必要がある.この目的のためにいくつかのスケールが考案され,その有用性が検討されてきた(表1).
CHADS2スコア
CHADS2スコアは,心房細動の塞栓症発症リスクを評価したAFI(The Atrial Fibrillation Investigators)とSPAF(The Stroke Prevention in Atrial Fibrillation)という2つの先行する研究で用いられた危険因子を組み合わせて,より精度高く抗凝固療法の適応を判断しうるスコアを構築する目的で作成された3).AFIでは虚血性脳卒中の既往,高血圧,糖尿病を高リスク因子としてあげ,年齢65歳以上を中等度のリスク因子としている.SPAFでは,虚血性脳卒中の既往,年齢75歳以上の女性,うっ血性心不全や心機能低下を高リスク因子としている.高血圧に関しては,収縮期血圧160mmHg 以上は高リスクであるが,それ以外は中等度のリスク因子であるとしている.このように,スコアにより危険因子の重み付けが異なっていたり,リスク評価の結果に差異が生じたりという問題点があった.CHADS2はうっ血性心不全(Congestive heart failure),高血圧(Hypertension),年齢75歳以上(Age75years or older),糖尿病(Diabetes mellitus),虚血性脳卒中の既往(prior ischemic Stroke or TIA)の頭文字をとったものである.虚血性脳卒中の既往は2点とし,その他の危険因子は1点として,最高6点の合計点で塞栓症発症リスクを評価する.CHADS2スコアは脳卒中発症率とよく相関しており3),脳梗塞発症後の予後とも相関することが報告されている4)5)。AHAの脳卒中一次予防のガイドラインでは,NVAF でCHADS2スコア2点相当以上であれば,ワルファリンによる抗凝固療法が推奨されるとされている6).一方で,それより低リスクの患者に対しては,諸条件を考慮した上でのアスピリン投与が推奨されているが,日本人を対象とした研究では,心房細動の塞栓症予防におけるアスピリンの有効性は証明されなかった7).
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