抗凝固療法 Update
脳梗塞急性期における抗凝固療法
脳と循環 Vol.16 No.3, 23-28, 2011
SUMMARY
脳梗塞急性期の抗凝固療法は確立した治療法ではないが,特に心原性脳塞栓症では梗塞巣の大きさや血圧,出血性合併症などを考慮した上で,早期再発予防を目的として低用量のヘパリン持続静注を開始し,ワルファリンなどの経口抗凝固薬に移行することが奨められる.最近,非弁膜症性心房細動に対して直接トロンビン阻害薬が保険適用となり,急性期からの使用も広がりつつある.動脈解離や脳静脈血栓症に伴う脳梗塞にも抗凝固療法が適応である.
KEY WORDS
急性期脳梗塞/抗凝固療法/ワルファリン/ダビガトラン
はじめに
わが国における死因の第3位は脳卒中であり,死亡者数は年間約13万人にものぼる.その死亡要因は脳梗塞が約60%と最も多く,脳梗塞による死亡は増加傾向にある.なかでも心原性脳塞栓症は,他の脳梗塞の病型に比べて梗塞巣が大きく重症で,1回の発作で重度後遺症を残して要介護となるケース(ノックアウト梗塞)も多く,社会的に極めて重要な疾患である1).脳卒中データベース2009によると,心原性脳塞栓症は脳梗塞全体の27%を占め,その約70%に心房細動の合併が認められている2).心房細動患者における脳塞栓症急性期の再発予防については,その栓子が主にフィブリン血栓であることから抗凝固療法を行うことが合理的である.しかし,閉塞血管の再開通現象に伴い,しばしば出血性梗塞をきたすことから急性期の抗凝固療法は確立していないのが現状である.また,ワルファリンを用いた慢性期の抗凝固療法は,これまでに多くの臨床試験でその有効性が証明されており3),リスクに応じて行うことが推奨されているが4)5),ワルファリンは効果発現が遅く,調節性の面などからも急性期の抗凝固療法としては適していない点がある.そこで,まずヘパリンを用いることが通例となっているが,この治療法もいまだ確立したエビデンスはなく,その開始時期や他の抗血栓療法との使い分け,ワルファリンへの移行時期などについてもコンセンサスが得られていないのが現状である.
本稿では,心房細動に伴う虚血性脳卒中急性期の抗凝固療法を中心に,最近発売された新規経口抗凝固薬,直接トロンビン阻害薬(direct thrombin inhibitor:DTI)の急性期治療における位置づけについても解説する.
ガイドラインにおける虚血性脳卒中に対する抗凝固療法の位置づけ(表1)
記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。
M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。