知って得するワンポイントアドバイス
軽症くも膜下出血と画像診断
脳と循環 Vol.16 No.2, 66-68, 2011
はじめに
くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)は脳卒中の約1割を占める.脳動脈瘤破裂に伴うものは年間10万人当たり約20人が発症するとされる1).このうち10~20%は発作直後に死亡し,入院後に死亡ないし重篤な後遺症を残すものが20~25%とされ,社会復帰が可能となるのは3割程度である.予後の大部分は出血の重症度に依存するため,軽症であれば社会復帰につながる可能性が高くなる.しかし,軽症であればあるほど初診時には所見が乏しく,診断に苦慮してしまう症例が散見される2)-4).実際,米国では12%のSAHが同定できなかったという報告もある5).こうした見落としを防ぐためには,症状などに頭痛の起こり方を十分に聴取することが重要である.次いで,頭部CTを十分に読影することである.それでも診断がつかない場合には腰椎穿刺が考慮されるが,侵襲的であるため近年ではMRI稼動施設の増加に伴い,CTの次にMRIを施行することも増えてきている.
症状について
何よりもSAHは疑うことが大切である.その主訴となる症状の第一は頭痛である.典型的な頭痛はハンマーで殴られたような,あるいは今まで経験したことのないような頭痛と表現される.雷鳴様頭痛と表現されることもある.また,発症様式も重要である.Sudden onsetと呼ばれるように,突然生じてくることが多い.時計をみていれば何時何分と時間がわかるような,そうでなくとも意識がしっかりしていれば,そのときに何をしていたかがわかるぐらいはっきりと発症時間がわかる,といった経過が典型的である.また,嘔気嘔吐を伴うことが参考所見となる.しかし,出血が少量である場合などは頭痛も軽症であることがあり,このような典型的な症状がはっきりせず,感冒様の頭痛や緊張性頭痛と見分けがつかない症例もあるため,症状のみで判断を下すのは危険である.
頭部CT所見
やはり診断には画像所見が必要である.その中でもCTは国内の普及率が高く,検査の施行しやすさや侵襲の低さから第一選択となる.SAHが疑われた場合にはまず行うべき検査である.典型的な所見は脳底槽にhigh density area(いわゆるペンタゴン)がみられるもので,これは最もわかりやすい.しかし,少量の出血の場合には全く脳底槽に出血所見がみられない例もある.また,時間経過によっても診断率は低下する.発症当日であればCTによる診断率は91%といわれているが,発症1日目でも84%,発症2日目では74%と経時的に診断率は低下し6),1週間経過した時点では50%まで低下する7).
そのような場合には,シルビウス裂の描出や左右差,脳溝の左右差にも注目する必要がある(図1).
また,それ以外にも脳表や側脳室など,少し離れた部位まで丁寧に読影を行う必要がある.このような注意すべき所見の一つに側脳室の拡大があり,ニコニコサイン8)(図2)と呼ばれることがある.
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。