脳卒中の治療技術
卵円孔に対する閉鎖術
脳と循環 Vol.16 No.2, 61-64, 2011
はじめに
私が初めて卵円孔(patent foramen ovale:PFO)が脳梗塞の原因となることを知ったのは,医師になって10年ほど経過した,1991年カナダのトロント小児病院に留学したときであった.Paradoxical embolismの言葉を聞いて,病院の図書館で調べた記憶が蘇る.帰国後に心房中隔欠損のカテーテル閉鎖術を国内導入する準備にあたり,PFOの国内閉鎖適応症例数を知るために同級生の神経内科医に奇異性梗塞(paradoxical embolism:PE)1)について聞いたところ,知らないとの返事.現在ではよく知られるようになったPEであるが,食生活などの変化により症例が増えたのか,脳梗塞の診断がより詳細となったのか? 時代の推移を感じるエピソードである.
対象
PEの確定診断はなかなか難しい.脳梗塞の急性期に経食道心エコーにてPFOに血栓の存在が確認されれば確定的であるが(図1),そのような症例の生存する可能性は低い.
診断基準は「放射線学的な脳梗塞の診断」「心房レベルでの右―左短絡が証明」「他に脳梗塞の原因が認められない」,さらに「下肢の深部静脈血栓か肺梗塞の診断」が求められる.わが国の脳梗塞症例では約20%に心房レベルでの右―左短絡が認められるが,PEは全脳梗塞の5%といわれている2).若年者の一過性脳虚血発作では,さらにその頻度は上昇すると近年はいわれている.
診断法
脳梗塞の診断と血栓源となる心疾患と血管の狭窄病変がないことを確認する.心房レベルでの右―左短絡の診断は,経食道心エコー図検査中にコントラストエコーを行い,可能であれば迷走神経刺激を加えて,コントラストがPFOを通過するか否かを検査する.最近は,経頭蓋超音波ドプラ検査(TCD)で脳動脈内の微小栓子シグナルを検出する方法がある.下肢の静脈血栓は末梢血管エコー図検査にて行い,肺梗塞の鑑別は肺血流シンチにて容易に行うことができる.日本人の頭蓋骨は厚めで,側頭部ではドプラ感度が低いことがあり,川崎医科大学の木村和美教授によると,眼球の上より眼窩窓を利用すると感度が上昇するとのことであった(図2).
記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。
M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。