他科専門医からみた脳卒中
(座談会)他科からみた脳卒中―その診断治療のpitfall―
脳と循環 Vol.16 No.2, 11-19, 2011
わが国に多い国民病・脳卒中と各専門領域での関わりと現状
井林(司会)――最近では,患者さんが抱える合併症や介護・福祉の問題などから,他科の先生方に相談する機会が増えました.また医師だけではなく,多職種のチーム医療という時代になってきたことも実感しています.そこで,今回は他科の専門医の先生方がどのように脳卒中と関わっておられるのかを伺います.
誠愛リハビリテーション病院 院長
井林雪郎 Setsuro IBAYASHI(司会)
天理よろづ相談所病院消化器内科
岡野明浩 Akihiro OKANO
済生会熊本病院集中治療室 部長
西上和宏 Kazuhiro NISHIGAMI
順天堂大学医学部附属練馬病院
メンタルクリニック科 先任准教授
八田耕太郎 Kotaro HATTA
日本医科大学大学院侵襲生体管理学(救急医学)教授
横田裕行 Hiroyuki YOKOTA
わが国に多い国民病・脳卒中と各専門領域での関わりと現状(続き)
岡野――消化器診療において脳卒中患者さんと直接ではありませんが,抗血栓薬との関連で関わりがあります.たとえば,出血性胃十二指腸潰瘍で夜間に呼び出しを受けて診察しますと,アスピリンやワルファリンを服用しているケースによく遭遇します.また,抗血栓薬を服用している患者さんの数は20年前と比較して明らかに増加してきていますので,観血的処置時に抗血栓薬をどう中止してどう再開するかという点で関与しています.
西上――心血管疾患は脳卒中に直接関わる領域です.たとえば心筋梗塞は動脈硬化性疾患であり,アテローム血栓性の脳疾患との関連があることから動脈硬化性の要素として心血管と脳血管は関連しています.
八田――私は卒後,長く精神科の救急に携わっていました.その中でも前頭葉のかなり広範囲で起きた脳梗塞と,基底核部で出血を起こしていた例が印象に残っています.興奮していたり,あるいは全く動かないという状況で精神症状を疑われて精神科の救急に搬送されてきたのですが,CTを撮って初めて脳卒中だとわかったケースです.
一方で,脳卒中を発症して精神症状を引き起こすケースは,報告によってばらつきはありますが,多いものだと50%近いといわれています.高齢者になりますと約半数がせん妄を起こしますが,多くは数日で消退します.ただ,脳卒中の場合は身体症状を伴いますから,同じ中枢神経を扱う立場である神経内科の先生が診療されることが多いので,鎮静に難渋するというケース以外で脳卒中の患者さんが精神科に来ることは少ないです.
実際には,通過症候群的な情動不安定さ,攻撃性,人格変化を起こす患者さん,脳卒中後の抑うつなどに精神科医が関わっています.
横田――救急ではさまざまな領域の患者さんが含まれますが,脳卒中を発症した救急患者さんをいかに各専門医あるいは脳卒中専門医療機関に搬送するかが最も重要ではないかと考えています.そのため,最近は行政と関わって,各専門科・専門医療機関に搬送するシステムづくりを試みています.
各領域における診断治療上のコツと落とし穴
1.抗血栓薬と出血性潰瘍
岡野――我々がよく対応する疾患に,アスピリン潰瘍があります.アスピリンと消化管出血のリスクのオッズ比は1.8と高く,さらに他の抗血栓薬と2剤併用すると2.3~7.4に上昇します.アスピリン服用による上部消化管出血のリスクとして,①潰瘍の既往があること,②高齢(70歳以上.年齢と共に増加)であること,③他の抗血栓薬を併用していること,④NSAIDsを併用していること,があげられます.
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。