「はじめに」 現在, 致死的肝疾患患者に対する治療法として肝移植が行われているが, ドナー肝臓が著しく不足していることから, 新しい治療法として細胞移植が考えられる. 成熟肝細胞の入手も同様に困難なことから, 細胞移植の細胞源として幹細胞に期待が寄せられているが, 増殖能の高い幹細胞が成熟肝細胞と同等またはそれ以上に優れているかはわかっていない. そこで細胞移植治療の観点から, 分化度の異なる肝幹細胞, 肝前駆細胞, 成熟肝細胞を移植した場合における組織修復機構についてわれわれの研究成果を中心にこれまでにわかっている知見をまとめてみたい.

「肝幹細胞」 肝幹細胞として, 肝芽細胞とオーバル細胞がある. どちらも肝細胞と胆管上皮細胞に分化する能力をもつ幹細胞であるが, 肝芽細胞は胎児肝由来であるのに対し, オーバル細胞は肝障害や肝化学発癌過程に出現する楕円形の核をもつ細胞である. 肝芽細胞の特異的マーカーとしてα-fetoprotein(AFP)やDlk-1 1)が, オーバル細胞のマーカーとしてはThy1(CD90), c-kit, OV-6 2)などが知られている.