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腫瘍をめぐるQ&A

Question 食道癌のリスクファクター

田中文明三森功士柴田浩平主藤朝也森正樹

Surgery Frontier Vol.18 No.4, 96-98, 2011

Answer
はじめに
 食道癌は,癌細胞が転移・浸潤を起こしやすいという性質のみならず,転移の経路が複雑であり,漿膜を有さず浸潤が容易であるという解剖学的な臓器の性質を有するために,消化管癌のなかで最も治療抵抗性であり,早期癌の段階で患者を治療することが予後の改善を得るためには特に重要である。日本においては,男性の癌死亡原因の第6位である。食道癌発生は,歴史的に生活習慣との関連が深く示唆されてきた。また,近年の分子生物学の進歩はめざましく,これまで未知であった癌の発生メカニズムを明らかにしつつある。それらは,生まれたそのときから親から引き継いだ遺伝子そのもの,また,生活環境(喫煙・飲酒・感染)や二次的要因により引き起こされた遺伝子発現の変化,とさまざまである。本稿では,食道癌発生のリスクファクターを要約する。

生活環境

 以前より,飲酒と喫煙が食道癌発生と関与することは報告されている。われわれが2005年より開始した基盤研究S「食道癌の診療向上のための分子遺伝学的および分子疫学的研究」で報告した結果では,食道扁平上皮癌患者1071名,対照健常人(内視鏡検査で食道癌が見出されなかった人) 2762人を用いて検索した結果,食道扁平上皮癌罹患危険率が飲酒のみでは3.5倍,喫煙のみでは2.3倍,飲酒と喫煙同時により16倍となることが明らかにされた。飲酒と喫煙が交互作用を有していることも示された。飲酒量,喫煙量とも,その量が増えるに従って食道癌扁平上皮癌罹患率が高くなることも示された1)。飲酒によって,アルコール代謝過程のアセトアルデヒド濃度が上昇すること,また,喫煙によって血中ニコチン濃度が上昇することが発癌に関与すると考えられる。同様の報告は他施設からも発表があり,本邦においてより確からしいと考えられる2)。
 また,以前より高温の食餌(茶がゆ,お茶)を大量に摂取することが食道扁平上皮癌発症に関与するといわれてきたが,本邦では大規模研究はなされておらず明らかにされていない。
 さらに,近年の研究では,骨粗鬆症治療・予防で広く用いられている経口ビスフォスフォネート剤摂取は,有意に食道癌発症を上昇させたと報告された3)。

遺伝要因(SNPs)

 近年の分子生物学の発達により,親から引き継いだ性質である全遺伝子情報を解析する方法が開発された。そのなかで,各個人の性質,たとえば血液型などを示すのは遺伝子多型によることが明らかとなった。さらに,1遺伝子多型(SNP)を全ゲノムにわたっていちどに解析する方法も開発され,「各疾患患者に特異的なSNPs」が次々と明らかにされている。多数の患者(多くは1000人単位)と対照の健常人を比較することにより,患者特異的な遺伝子多型が判明する。上記のわれわれが報告した結果では,アルコール代謝に関与するADH1B,ALDH2遺伝子多型が食道扁平上皮癌発癌に著明に関与することが明らかとされた1)。この結果は,われわれ日本人と,対照としてほかのグループからの研究,また他国での研究でも同様な報告があり,きわめて確実に関与すると考えられる2)。ここで示しておきたいのは,生活習慣でアルコール摂取が食道癌発癌に関与したためアルコール代謝遺伝子を最初から作為的に選んだのではなく,分子生物学,統計学手法によって選択されたのがこの遺伝子だった,ということがきわめて重要である。
 そのほかにも,同様な手法によりPLCE1,C20orf54遺伝子上でのSNPsが関与することも報告された4)。また,固有の遺伝子多型と食道癌の関連で報告されたものでは,Twist1 5),p53,p73 6),p21 7)遺伝子などがある。つまり,これらの危険アリルをもって生まれた場合,将来食道癌が発症するリスクがそうでない人より高くなるということである。

生活要因と遺伝要因の統合解析

 上記の生活環境因子と遺伝要因を同時解析した結果,われわれが発表したADH1B,ALDH2遺伝子多型と飲酒・喫煙が交互作用をもって有意に食道扁平上皮癌発癌に関与することが明らかとなった。特に,これらの遺伝子の危険アリルを有する人が飲酒を行うと,著しく食道扁平上皮癌発症が増加する。喫煙は一様に食道癌発癌リスクを上昇させる(図1)。

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