<< 一覧に戻る

腫瘍をめぐるQ&A

Question 肝臓癌の全ゲノム解読からわかったこと

柴田龍弘

Surgery Frontier Vol.18 No.4, 92-95, 2011

Answer
はじめに
 近年のシークエンス技術の革新によって,数年前には考えられなかった癌ゲノムの全解読が可能になっている。最近,われわれのグループではC型肝炎ウイルス陽性肝臓癌の全ゲノム解読を報告した1)。その結果,いったいどのようなことがわかり,どのような疑問がさらに生まれたのだろうか?

癌におけるすべてのゲノム変異の解明

 癌はゲノムの病気であり,ゲノムの異常が蓄積して発生することが知られている。それでは,癌細胞にはいったいどのくらいの遺伝子変異が起こっているのだろうか?肝臓癌の全ゲノム解読の結果,この症例ではゲノム全体で11000個以上の変異が起こっていることがわかった(表1)。

肝臓癌以外の固形腫瘍でも,おおむね数千~3万カ所で変異が起こっており2)3),白血病(acute myeloid leukemia;AML)でもほぼ同数の変異があると報告されている4)。
 ヒトゲノムには,約2万個の蛋白質をコードしている遺伝子と,おそらく1万個以上の蛋白質をコードしていないRNA (non-coding RNA;ncRNA)が存在していると推測されている5)。たとえば,マイクロRNAのような小分子RNAや,最近注目されている長鎖lincRNA6)といったものが後者に含まれる。ncRNAには機能がほとんどわかっていないものも多く含まれる。ゲノム全解読によって,ncRNAも含めた遺伝子に起こっている変異がすべて検出できると(表1),これまで癌との関連が予想されなかった新規の癌遺伝子の発見に加えて,肝臓癌で重要なncRNAの同定にも繋がる可能性がある。また,癌細胞で起こっている変異がすべて解明されると,どういった分子経路が肝臓癌で重要な役割を果たしているのかといったパスウェイ解析も可能になり,その解明から新たな治療法の開発も期待される。

染色体再構成の全体像と融合遺伝子の同定

 血液腫瘍や肉腫では,染色体転座による融合遺伝子が発癌に重要な役割を果たしていることが明らかになっているが,上皮性固形癌における融合遺伝子の解明については,これまで解析が進んでいなかった。この理由のひとつとして,固形癌では一般的に複雑な染色体構造異常を示すため,従来の核型分析では解析が困難であったことが挙げられる。全ゲノム解読によって,染色体の断裂融合点が詳細に同定できることになり,染色体転座に加えて核型分析では検出できないような微小な構造異常も同定できるようになった。今回の解析では,23カ所の染色体再構成異常(欠失,逆位,重複,転座)を検出し,その結果として4つの新規融合遺伝子ができあがっていることが同定できた(図1)。

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る