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栄養のKEY NOTE

【栄養と免疫】栄養と腸管免疫

深柄和彦安原洋

Surgery Frontier Vol.18 No.4, 88-91, 2011

はじめに
 腸管内腔には大量の細菌が存在しているが,健常時には人体と共生関係にあり,腸内細菌が産生するさまざまな短鎖脂肪酸は腸管,特に大腸粘膜細胞のエネルギー基質として利用される。腸管内腔の細菌・病原体は,腸管の物理的・免疫学的バリアによって,体循環内への侵入が阻まれている。

腸管バリア

 腸粘膜上皮は厚い粘液層に被覆され,その内部にはdefensins,lactoferrin,lysozymes,secretory phospholipase A2が含まれている。この粘液層と抗菌性の物質は,細菌の粘膜上皮への接着を妨げ,非特異的なバリアを形成している。さらに,腸管上皮細胞間にはtight junctionが存在し,細菌の侵入を防いでいる1)。
 一方,腸管には人体最大のリンパ組織である腸管リンパ装置(gut associated lymphoid tissue;GALT)が存在し,腸管のみならず全身の粘膜免疫を司っている。腸管のパイエル板を覆っているM細胞は,腸管内腔のさまざまな抗原物質を取り込み,樹状細胞に引き渡す。樹状細胞は,抗原を処理し,体循環からパイエル板にたどりついた未感作のリンパ球に提示しこれを感作する。感作されたリンパ球は,腸間膜リンパ節で成熟・増殖し,胸管を経て体循環に戻っていき,腸管あるいは呼吸器など腸管外の粘膜組織に達し,それぞれの粘膜の免疫学的防御にあたる。腸管内では,Th2リンパ球から産生されるTh2系サイトカインであるIL4,5,6,10がB細胞の形質細胞への変化を促す。形質細胞は免疫グロブリンA (immunoglobulin A;IgA)を産生する。IgAは,腸上皮細胞の基底側に存在するpolymeric immunoglobulin receptor (pIgR)と結合し,上皮細胞内を通って管腔側に分泌される。IgAは補体系を活性化せず,強い炎症反応を引き起こすことなく細菌に結合し,細菌の粘膜上皮への接着を阻むことによって特異的な粘膜バリアに貢献している1)。

腸管バリアの破綻

 しかし,さまざまな侵襲・ストレスが生体に加わると,このバリアが破綻し,血中・リンパ管内に細菌・毒素が入り込む。血中・リンパ管内まで至らずとも,腸管上皮を超えて腸管壁に侵入した細菌・毒素は,腸管の免疫細胞を刺激し,多量の炎症性メディエーター産生を引き起こす。これら一連の現象は,バクテリアルトランスロケーションと呼ばれ,明らかな感染巣がないにもかかわらず,全身性の高度な炎症反応・感染徴候を示す病態の原因と推察されている。また,腸管免疫の異常は,腸管のみならず全身の粘膜免疫の低下につながるため,肺炎などの重篤な感染症に対する抵抗力が減弱する2)。
 したがって,腸管バリア,特に腸管免疫の維持は重症患者の管理上重要な問題と理解されており,栄養の投与ルート・量・質と密接な関連があることが判明している。

栄養による腸管免疫の修飾

 栄養投与量不足・栄養投与量は静脈栄養で保たれていても経腸的な栄養投与が行われていない状況では,腸管リンパ装置の細胞数が減少し,その機能も低下するため腸管と全身の粘膜免疫が低下する。lipopolysaccharide投与や腸管虚血再灌流などの高度侵襲モデルでは,腸管免疫が低下することが報告されており3),侵襲下で栄養投与量が不足したり,静脈栄養に頼った栄養管理を行っていると,腸管免疫の低下はさらに著しくなる。重症患者に対する適切な栄養管理,早期経腸栄養が推奨される所以である。

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