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What's New in SURGERY FRONTIER

第71回粘膜の監視・排除・共生システム ヒト腸内マイクロバイオーム

服部正平

Surgery Frontier Vol.18 No.4, 64-67, 2011

はじめに
 ヒト腸管内には100兆個オーダーの1000菌種を越える細菌種からなる腸内細菌叢が形成されている1)。腸内細菌叢は宿主への栄養やエネルギー源の供給,腸管細胞の分化や成熟,感染症の防御などの有益な効果を有する。一方で,炎症性腸疾患や肥満,自己免疫糖尿病などのさまざまな病気の素因にもなる2)-5)。長年にわたり,細菌の培養分離などによって腸内細菌の研究が行われてきたが,その複雑さや多くが培養できない菌種(難培養細菌種)であるなどの理由で,その実体や生理機能の解明は大きな限界に直面していた。しかし,今日では次世代シークエンサーを用いたゲノム科学的アプローチで,従来では困難であった網羅的で包括的な研究が可能になってきた。

ヒト腸内マイクロバイオームのメタゲノム解析

 メタゲノム解析は,細菌叢から直接調製したゲノム(すべての細菌種のゲノム=メタゲノム=マイクロバイオーム)をランダムにシークエンスして,そこに存在する遺伝子を情報学的に同定するアプローチである(図1)。

同定された遺伝子はその配列類似度を指標に類似(オルソログ)遺伝子ごとにクラスター化される(これらのクラスターをClusters of Orthologous Groups;COGと呼ぶ)。ついで,各COG中の遺伝子の機能既知遺伝子に対する相同性検索から,各COGを20種類の原核生物の機能カテゴリー(複製や転写など)に分類する。そして,各機能カテゴリーのCOG数をカウントすることで機能カテゴリーの頻度分布が得られる。得られる機能の頻度分布はその細菌叢の機能特性を反映することになる。なお,既知遺伝子と配列類似度をもたない新規遺伝子候補もこのプロセスで発見される。
 これまでに,ヒト腸内細菌叢のメタゲノム解析は4報の論文がある(表1)6)-9)。

これらの研究から,腸内細菌叢が炭水化物の代謝などのヒトの生理機能に重要な遺伝子を多数もつことなどが明らかになっている。次世代シークエンサーを用いた124名の欧州人の腸内細菌叢の解析では,約330万個の腸内細菌遺伝子が同定され,これらの遺伝子の約1/3が全被験者間で共有されていた9)。ヒトゲノムの個人間の違い(~2%)と比べると,腸内細菌叢がいかに多様であるかがわかる。筆者らが発表した日本人腸内細菌叢の66万個の遺伝子との比較から,日本人に特徴的な遺伝子が存在することがわかった。その1例は,海苔などの水生植物由来の多糖類分解酵素の遺伝子である10)。この遺伝子は,海洋細菌から腸内細菌に水平伝播したものと推定され,腸内細菌叢の機能が宿主の食事成分や食習慣に大きく依存することを示唆している。

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