はじめに  ヒト腸管内には100兆個オーダーの1000菌種を越える細菌種からなる腸内細菌叢が形成されている1)。腸内細菌叢は宿主への栄養やエネルギー源の供給,腸管細胞の分化や成熟,感染症の防御などの有益な効果を有する。一方で,炎症性腸疾患や肥満,自己免疫糖尿病などのさまざまな病気の素因にもなる2)-5)。長年にわたり,細菌の培養分離などによって腸内細菌の研究が行われてきたが,その複雑さや多くが培養できない菌種(難培養細菌種)であるなどの理由で,その実体や生理機能の解明は大きな限界に直面していた。しかし,今日では次世代シークエンサーを用いたゲノム科学的アプローチで,従来では困難であった網羅的で包括的な研究が可能になってきた。