Summary  われわれはこれまで,広島・長崎の原爆被爆者,チェルノブイリ原発事故などから,放射線が人体に与える影響について調査研究を継続している。しかしながら,低線量領域では,その発癌リスクの上昇は検出できない。個人の遺伝的背景や生活習慣,ほかのリスク要因などの交絡因子の影響が大きく,疫学的に検証するのはきわめて困難である。チェルノブイリ事故後の被曝住民に対し,これまでにコンセンサスの得られた放射線による健康影響は,短半減期の放射性ヨード被曝によると思われる小児甲状腺癌の増加のみである。ほかの長半減期核種である137Csなどでの健康影響は証明されていない。一方,直接放射線によるものではないが,精神的・心理的影響は甚大であり,チェルノブイリの教訓が福島に生かされる必要がある。福島では,今後とも実害と風評被害への対応,具体的には継続した放射線リスクコミュニケーションと,健康ならびに環境汚染モニタリング体制の拡充が重要である。