<< 一覧に戻る

大震災後のよりよい医療の復旧・復興を目指して

大震災および福島第一原発事故後のメンタルケア報告―福島県沿岸地域における精神医療の現状と今後の課題―

Report on mental care for Tohoku- Pacific Ocean Earthquake and Fukushima Daiichi nuclear disaster : Actual situation and future problem of psychiatric service in the pacific coast of Fukushima prefecture

矢部博興三浦至板垣俊太郎和田明勝見明彦志賀哲也貝淵俊之樋代真一安藤海香伊瀬陽子大口春香浅野聡子太田貴文髙橋高人及川祐一本谷亮大川貴子加藤郁子大竹眞裕美増子博文中山洋子丹羽眞一

Surgery Frontier Vol.18 No.4, 19-22, 2011

Summary
 東日本大震災と津波によって東北三県は甚大な被害を被ったが,震災直後より,福島県内では精神科医の不足が深刻となった。これには原発事故による放射能の影響が色濃く認められた。福島県立医科大学心のケアチームは,他県の医療機関に協力を直にお願いし,心のケアチームを組織し,放射能問題で支援の入りにくい浜通りに支援を集中させた。いわき地区における活動は,各避難所における巡回診療・相談が中心であった。また,相双地区においては,避難指示あるいは屋内待避指示(現在,緊急時避難準備区域)が出された地域に,4つの精神病院のすべてが含まれたため,精神科入院機能がすべて失われ,約800人の入院患者は県内外の病院に移送された。一方,外来患者は通院先を失ってしまった。これらに対応すべく,公立相馬総合病院に臨時の精神科クリニックを開設し,外来診療,地域の巡回診療を行っているが,今後はアウトリーチ型の精神医療の導入を検討せざるを得ない状況である。

Key Words
東日本大震災,放射能問題,心のケア,原発事故,アウトリーチ

はじめに

 2011年3月11日に発生した東日本大震災は東北地方に未曾有の災害をもたらした。特に太平洋側の東北三県の岩手県,宮城県,福島県ではきわめて甚大な被害が報告された(図1)。

福島県ではこれに加えて,東京電力原子力発電所の事故による放射能汚染からの避難のために,入院患者の治療が十分にできない状況や,学校の体育館などの避難所での生活が長引いている避難者の心の疲労の問題が生じた。そのため,福島県立医科大学医学部神経精神医学講座は心のケアチームを立ち上げ,壊滅的な打撃を受け,原発事故の影響で支援チームの入りにくい浜通りに支援を集中させることとなった。
 しかし,3月22日時点でも福島県内に446の避難所があり36227人が避難している状況であり,巡回するのにも医療スタッフの人員不足が深刻であった。のちに,この人員不足には,原発事故の影響による福島県独自の問題が存在することがわかった。2011年4月11日付けの中国新聞によれば,厚生労働省は地震直後に,日本医師会,日本看護協会,自治体に人員派遣を要請し,保健師は事務職員らと3,4人のチームで被災地入りしたということであった。しかし,3月27日時点で活動していた医療チームは岩手県で35チーム,宮城県で76チームだったのに対し,福島県ではわずか2チームに過ぎなかったとのことであった。これにより,県知事が厚生労働省に直訴し,同省は再度の要請に踏み切り,これ以降,17自治体から派遣申し出があったものの,申し出の際には原発事故に関する懸念が伝えられたり,派遣先を原発から遠い地域にするよう依頼されたりしたという実態があった。このような現状に鑑み,神経精神医学講座では,他県の大学,病院,医療センターに協力を直にお願いし,心のケアチームを組織し,活動を開始した。その結果,この要請に多くの支援者たちが呼応し,沿岸地域の医療を担っていただいた。その経過について報告する。

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る