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オートファジー

癌に対する新規治療とオートファジー

The role of autophagy in the new treatment of malignant tumor

三嶋裕子畠清彦

Surgery Frontier Vol.18 No.2, 40-44, 2011

Summary
 オートファジーは細胞のストレス環境における耐性機構と考えられてきたが,それ以外に生体における細胞の発生,分化,維持などにも深くかかわることが分かってきている。そのほかに現在,癌細胞とオートファジーの研究がさかんに進められている。オートファジーの癌細胞における働きは非常に複雑で,全貌はまだ解明していないが,癌細胞死に抑制的に働く場合,促進的に働く場合,また癌増殖自体を抑制する場合など,それぞれが確認されている。多癌種にわたる細胞株での研究より,そのオートファジー誘導,または抑制による細胞死誘導について報告が相次ぎ,癌細胞に対する従来の抗癌薬や放射線治療に対しての抵抗性との関連も示唆されており,今後新たな治療戦略として注目すべき存在である。現在はまだすぐに臨床応用できる段階ではないが,基礎実験を基にした臨床試験の開始を期待したい。

Key Words
オートファジー,癌細胞死,治療抵抗性,アポトーシス

オートファジーとは

 哺乳類の細胞におけるオートファジーとは,細胞が栄養飢餓状態,低酸素,放射線照射などストレス環境に置かれた状況においての自己の細胞内小器官,ミトコンドリアなどを分解することにより産生されるATP (アデノシン三リン酸)を再利用し,細胞の生命を維持する,自己防衛システムと考えられてきた。しかし,そのほかにも細胞の分化,成熟段階での役割や,感染防御機構など生体の恒常維持においてさまざまな役割が確認されるようになり,またアルツハイマー,フォールディング病などの神経,筋変成疾患の一要因となることも分かってきている。そして癌細胞における増殖もしくは抑制に強くかかわっていることが近年報告され,癌治療においてもオートファジーの役割に注目が集まっている。

癌細胞とオートファジー

 癌細胞におけるオートファジーの役割は非常に複雑で多様な要素を含んでいる。まず,従来報告されていたのは乳癌細胞におけるタモキシフェンの使用でautophagic cell deathが誘導されることである1)。autophagic cell deathとは,アポトーシスとは別のtype Ⅱ programmed cell deathといわれ,caspase,TNF (tumor necrosis factor)などアポトーシスに必要なサイトカインに非依存性の細胞死である。アポトーシスとautophagic cell deathの形態学的な違いは,アポトーシスが細胞死の過程において最初に核の分断化が起こってくるのに対して,オートファジーは細胞質内の蛋白の分解が起こり,最終的に核の断片化が起こるところである。RASを過剰発現させた神経芽腫の細胞でもautophagic cell deathが誘導されると報告があり,アポトーシスとは別の細胞死として注目が集まった2)。しかし,またそれとは別にアポトーシスとオートファジーは別のものではなく,アポトーシスの前段階でオートファジーが起こっている,という説もあり,オートファジーの研究については非常に混迷している部分も含まれる。
 そしてまたオートファジーは癌の増殖抑制にかかわっており,オートファジー関連遺伝子であるBeclin 1遺伝子が産生する蛋白質が乳癌,卵巣癌,前立腺癌などで同定され,マウスモデルなどでこのBeclin 1遺伝子を欠損させると腫瘍がより増殖に傾くとされている。さらにこのBeclin 1遺伝子の発現はリンパ腫,肺癌,肝細胞癌細胞においても発現が同定されている3)4)。これらの系からはオートファジーは遺伝子の不安定性を回避させたり,増殖刺激因子の過剰な産生を抑制したり,ダメージを受けた器官などの排除を行ったりすることで腫瘍の増殖を抑制しているのでは,と考えられている5)。
 また最近さかんに報告されているのは,癌細胞における細胞死,アポトーシスを抑制する働きである。オートファジーとアポトーシスが同時に起こっている系ではオートファジーがアポトーシスに対して抑制系に働き,オートファジーを抑制することにより逆にアポトーシスが促進され,癌細胞死が増加するとのことである5)6)。このことから癌細胞の従来の治療に対する抵抗性を解除する戦略の1つとも考えられてきている(図1)。

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