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What's New in SURGERY FRONTIER

第68回癌領域で注目されるPKCの新知見 胃癌におけるPKC

沖英次掛地吉弘前原喜彦

Surgery Frontier Vol.18 No.1, 66-69, 2011

はじめに
 PKC (protein kinase C)ファミリーは壁細胞における消化液の外分泌の調節や,EGFやVEGFリガンドなどの内分泌にかかわる多機能な分子である。胃癌を含む多くの癌細胞では,このPKC依存性のシグナル伝達異常が生じている。また,発癌のプロモーターであるホルボールエステルがPKCを活性化することは以前より知られており,PKCは有望な癌治療の標的の1つとなり得ると考えられている。

胃壁細胞におけるPKCの役割(図1)

 さまざまなPKCアイソフォームが壁細胞の酸分泌,内分泌,細胞増殖にかかわっている。図1に壁細胞におけるPKCの働きを簡略化した。PKCアイソフォームの詳細な説明は本連載の他稿を参照されたい。壁細胞はプロトンポンプによってHを胃内に出すが,この働きを促進するガストリンレセプターやムスカリンレセプターは,ガストリンやアセチルコリンの刺激を受けると,細胞膜リン脂質からジアシルグリセロール(DG)とイノシトール三リン酸(IP3)を生じさせる。さらにIP3は小胞体からカルシウムイオンを放出させる。このDGとCa2+が,それぞれのリガンドシグナルにより特定のPKCアイソフォームを活性化し,胃酸の分泌や内分泌をはじめとするさまざまな壁細胞の機能を調節している。EGFやVEGFなどのレセプター型チロシンキナーゼのリガンドやIL-1RなどのサイトカインレセプターのリガンドもPKCを介するシグナル伝達で調節されている。さらに,これらレセプターからのシグナルもPKCを活性化し,壁細胞の機能調節にかかわっている。
 胃癌においては,PKCアイソフォームは抗アポトーシスや薬剤耐性にもかかわっているとされている。例えばPKCαは,薬剤耐性となった胃癌細胞で発現が上昇していることが報告されている1)。しかしながら同時にPKCαは,細胞の接着状態により役割が変化し,薬剤耐性とは全く逆のアポトーシス誘導にも働いているために,胃癌治療のターゲットとなり得るかどうかは難しい側面もある。以下に胃癌治療として有望なPKCを標的とした治療について列挙した。

PKCを標的とした胃癌治療の可能性(表1)

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