<< 一覧に戻る

癌と生体イメージング

二光子励起顕微鏡による骨髄・骨転移性癌の生体イメージング

In vivo imaging of bone marrow and bone metastasis by using intravital two-photon microscopy

小谷真奈斗菊田順一大畑絵美石井優

Surgery Frontier Vol.18 No.1, 44-49, 2011

Summary
 単球系の破骨細胞前駆細胞がいかにして骨表面に到達するか,その遊走がどう制御されているかは長い間不明であった。われわれは最近,二光子励起顕微鏡を用いて生きたままのマウス骨組織内を可視化することに成功し,前駆細胞の遊走・接着が,脂質メディエーターの一種であるスフィンゴシン-1-リン酸や種々のケモカインによって動的に制御されていることを解明した。本稿ではこの研究成果に加え,われわれが開発した骨のライブイメージングの方法論や応用について概説する。

Key words
破骨細胞,ケモカイン,脂質メディエーター,ケモタキシス(走化性),イメージング

はじめに

 近年の二光子励起顕微鏡技術の進歩,画像解析ソフトの改良,画期的なラベリング方法の発達により,サンプルをより深部まで観察することができるようになった。さらに,生体内の三次元環境に時間軸を入れることで,細胞や組織の挙動を知ることもできるようになった。これらの定量的な生体イメージングから得られる結果は有用な情報を数多くもたらしている。
 われわれは最近,二光子励起顕微鏡を駆使してマウスを生かしたままで骨組織内を観察するイメージング方法を確立させた1)。この方法を用いると,骨組織のリモデリングにかかわる破骨細胞や骨芽細胞,骨髄内で分化・成熟を遂げる単球・顆粒球・リンパ球,そのほかの間葉系細胞や血液幹細胞などの生きた動きを,リアルタイムで観察することができる。われわれは特に,骨を破壊・吸収する働きを持つ破骨細胞の動きと機能に注目して解析を行い,この前駆細胞の骨への遊走・位置決めが,種々のケモカインや脂質メディエーター(スフィンゴシン-1-リン酸:S1P)によって動的に調節されていることを明らかにした。
 本稿では,これらの研究成果の解説に加えて,骨組織内の二光子励起ライブイメージングの方法論や,実際の画像を紹介しながら概説し,最後に骨転移と癌幹細胞のイメージングへの挑戦について述べる。

イントロダクション:骨組織の恒常性維持機構

 骨組織は,古い骨を壊して吸収する「破骨細胞」と,骨を新生する「骨芽細胞」のバランスの取れた働きにより新陳代謝が繰り返されているが,加齢や炎症により破骨細胞の機能が亢進するとバランスが骨吸収側に傾き,骨粗鬆症の発症につながる。また関節リウマチでは,関節炎局所に活性化破骨細胞が多数誘導され,骨破壊に関与している2)3)。
 破骨細胞は単球系血液細胞から分化・成熟する多核巨細胞であるが,これまでの研究成果により,骨髄間質細胞や骨芽細胞などによって産生されるM-CSF (macrophage colony-stimulating factor)やRANKL (receptor activator of NF-κB ligand)が,破骨細胞の分化・成熟に必須であること,RANKL刺激はNF-κBやNFATなどの転写因子群を介して破骨細胞の分化を誘導すること,などの知見が確立している4)5)。その一方で,長らく解決されていなかった重要な謎があった。それは「破骨細胞(およびその前駆細胞)はどうやって骨表面に到達するのか」である。―「どのような分子機構が破骨細胞の遊走を調節しているのか」「いったん骨表面に達した破骨前駆細胞はすべて最終分化するのか(再び戻っていくことはあるのか)」など,ほとんど明らかにされてこなかった。
 われわれは,破骨前駆細胞がいかにして骨表面へ到達するのか,またその遊走・位置決めがどのように制御されているかについて解明するために,まず,種々のケモカインや脂質メディエーターについて,破骨前駆細胞を動かし得るかどうかin vitroの実験系でスクリーニングを行った。その結果,S1Pをはじめとした,いくつかの候補分子を得た。しかしながら,次の研究段階として,「これらの候補分子が実際にin vivoで破骨前駆細胞を動かすのかどうか」を解決する必要があった。このため,二光子励起顕微鏡を用いて生きた骨組織内部を観察することに挑戦した。

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る