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癌と生体イメージング

癌微小環境における低酸素癌細胞のライブイメージング

Real-time imaging of cancer cells in a hypoxic tumor microenvironment

口丸高弘門之園哲哉近藤科江

Surgery Frontier Vol.18 No.1, 36-43, 2011

Summary
 固形腫瘍内では,癌細胞の無秩序な増殖や不完全な血管形成により,組織全体への酸素の供給が不十分になることで,通常よりも酸素分圧が低い低酸素環境が存在している。近年,低酸素環境へ適応した低酸素癌細胞は,適応応答の過程で誘導される遺伝子群の働きによって,薬剤耐性や浸潤・転移能などを獲得することが明らかとなり,予後不良への関与が多数報告されている。このような背景から,疾患モデル動物において低酸素癌細胞の動態を非侵襲的に可視化するライブイメージング手法は,ダイナミックに変化する癌微小環境の基礎医学研究のみでなく,創薬研究などにおいても有効な手法となることが期待されている。

Key words
低酸素癌細胞,ライブイメージング,癌微小環境,標的治療,疾患モデル動物

癌微小環境における低酸素癌細胞

 近年,さまざまな癌研究,癌治療技術の発展とともに治療成果は大きく改善された。しかし,同時に癌という疾患が予想以上に複雑であることも明らかになり,現代においていまだ完全な撲滅の目途が立たない病でもある。今後,より効果的な癌治療を実現するためには,癌細胞だけに着目した治療戦略だけでなく,癌細胞とこれを取りまく線維芽細胞,免疫細胞,血管,リンパ管などを含めた,癌微小環境とのダイナミックな相互作用を理解することが必要であると考えられている1)。ほぼすべての固形腫瘍内に存在する低酸素環境は,細胞の無秩序な増殖やそれに伴う不規則,不完全な血管形成により,血流から供給される酸素が十分に行き渡らない領域が生じ,形成される2)。腫瘍の切片標本を低酸素マーカーであるpimonidazole3)を用いて染色すると,中央付近の壊死領域を取り囲むように,低酸素領域が存在していることが分かる(図1)。

この一部をさらに拡大して,蛍光免疫染色して観察すると,血管を取り囲むように,低酸素適応応答を司る低酸素誘導因子(hypoxia inducible factor:HIF)が活性化した癌細胞が存在し,その外側がpimonidazole染色領域,続いて壊死領域となっていることが分かる。
 低酸素癌研究の分子生物学的なアプローチは,1995年にJohns Hopkins大学のSemenza博士らにより,低酸素環境において細胞応答を司る転写因子HIF-1のcDNAが単離されたことにより劇的に進展した4)。その後,酸素分圧依存的なHIFを中心とする細胞応答の制御機構が次々と明らかとなり5)-7),低酸素研究に関する論文数は,現在も増加の一途をたどっている。
 HIFは細胞内酸素分圧依存的に制御されているαサブユニットと,恒常的に発現しているβサブユニットから構成される。現在までに,HIFαには3つのアイソフォーム(HIF-1α,HIF-2α,HIF-3α)が確認されており,この中でHIF-1αが最も普遍的に全身の臓器に発現し,かつ低酸素細胞応答の大部分を担っている8)。有酸素下にある細胞内では,HIF-1αの酸素依存的分解ドメイン(oxygen-dependent degradation domain:ODD)のプロリン残基が,酸素を反応基質として水酸化修飾されることで,ユビキチン-プロテアソーム経路に運ばれて分解される。しかし,低酸素環境においてはODDが水酸化修飾されず,HIF-1αはユビキチン-プロテアソーム分解経路を逃れ,核内でβサブユニットであるHIF-1βと複合体を形成してHIF-1となる。HIF-1は,DNA上のHRE (hypoxia response element)配列に結合し,100を超える遺伝子の発現を誘導する(図2)。

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