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特別寄稿

プロラクチン

―動物の進化と繁栄を支えてきた奇抜なホルモン―

武谷雄二

HORMONE FRONTIER IN GYNECOLOGY Vol.25 No.1, 68-76, 2018

臨床の場ではプロラクチン (prolactin;PRL) は専ら母乳の産生を刺激するホルモンとして知られており,それ以外の生理作用は明らかではなく,臨床医にとっては比較的関心が低いホルモンである。産婦人科医にとっても,不妊症の原因検索のスクリーニングの1つとして測定する以外には,PRLには注意を払うことはほとんどない。しかもPRLの血中濃度の異常が直接不妊の原因となっているのかも定かではない。産婦人科以外の診療科においても,PRLはそれを産生する下垂体腫瘍は注目されているが,それ以外にはPRLが脚光を浴びることはほとんどない。
PRLの生理学的意義に関して新たな地平を拓いたのは恩師,故 水口弘司名誉教授であった。同氏は1980年第32回日本産婦人科学会シンポジウムにおいて,羊水中には高濃度のPRLが存在しており,それは脱落膜に由来することを明らかにした。当時,すでにPRLは乳汁分泌作用とは異なる生理作用を発揮することで脊椎動物の進化に重要な役割を果たすことが知られていた。同氏はさらに「個体発生は系統発生を繰り返す」という学説に基づいて,PRLは胎児の発育に不可欠なホルモンであるということを裏づける諸事実を示した。ただしそれ以降,残念なことに産婦人科領域における諸家の関心はPRLから離れている。
今回,多分に個人的な興味ではあるが,特に妊娠の成立,維持,育児などの生殖各期において枢要な役割を担っているホルモンであるPRLの実像を動物の進化との関連で眺めてみた。

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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