<< 一覧に戻る

プロラクチンの生理・病理の新展開

向精神薬とプロラクチン

岸本泰士郎渡邊衡一郎

HORMONE FRONTIER IN GYNECOLOGY Vol.18 No.3, 85-90, 2011

Summary
 向精神薬は薬剤性高プロラクチン血症の原因として重要である。抗精神病薬は第一および第二世代に分類され,第一世代は高プロラクチン血症が避けられないが,第二世代にはプロラクチン値に影響しにくいものや,プロラクチン値を低下させるものがある。これは薬剤の血液脳関門(BBB)の通過性やドパミンD2受容体への固有活性などの違いによる。抗うつ薬での報告は少なく,臨床的な意義は不明である。抗精神病薬によって生じた高プロラクチン血症には薬剤の変更が望ましく,精神科医との連携が必要である。

Key words
●抗精神病薬 ●抗うつ薬 ●プロラクチン ●高プロラクチン血症 ●ドパミンD2受容体

はじめに

 高プロラクチン血症は主に特発性,下垂体性,薬剤性に分類され,向精神薬は薬剤性高プロラクチン血症の主要原因薬剤として重要である 1)。向精神薬のうち高プロラクチン血症と関連があるのは抗精神病薬および一部の抗うつ薬である。これらの薬剤の処方対象となる統合失調症やうつ病,あるいは双極性障害の治療は長期にわたることが多いため,高プロラクチン血症に起因するさまざまな合併症を常に念頭に置かねばならない。以前は高プロラクチン血症は,抗精神病薬治療において避けることのできない副作用であった。それにもかかわらず,精神科医の間で高プロラクチン血症に対する意識が高かったとはいいがたく,それゆえ患者への説明が不十分なケースも少なくなかった。
 過去15年間,新しいタイプの抗精神病薬(第二世代抗精神病薬)が開発・導入され,高プロラクチン血症を生じにくい,あるいは生じない薬剤の使用が可能になった。薬剤間での差別化がより鮮明になり,このことが高プロラクチン血症という副作用について重要視する契機になったのか,精神科領域におけるプロラクチン関連の論文数は増加傾向にある 2)。また患者への説明に関しても,インフォームドコンセントあるいはshared decision makingなど,より患者の視点に立った治療が広がりつつあることで 3)4),全体にはよい方向に向かいつつあると考える。
 本稿では,まず抗精神病薬および抗うつ薬に関してそれぞれによる高プロラクチン血症発生の機序を概説したあと,個々の薬剤がプロラクチンに及ぼす影響について述べる。また最後に,向精神薬による高プロラクチン血症への対処法,および精神科領域で注目されている高プロラクチン血症に関連した身体的合併症について簡単に紹介する。

抗精神病薬

1. 抗精神病薬による高プロラクチン血症発生の機序

 詳細は他稿を参照されたいが,プロラクチンの分泌調節はプロラクチン分泌促進因子(prolactin releasing factor;PRF)とプロラクチン分泌抑制因子(prolactin inhibiting factor;PIF)によってなされている。PRFにはエストロゲン,血管作動性腸管ポリペプチド(vasoactive intestinal peptide;VIP),甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropin releasing hormone;TRH),セロトニンなどがあり,PIFにはγ-アミノ酪酸(γ-aminobutyric acid;GABA)やドパミンなどが知られている。PIFはPRFに比してより優位であるが,このなかでプロラクチンの分泌調節に最も強い影響力をもっているのはドパミンである。灰白隆起漏斗路のニューロンによって産生されたドパミンは正中隆起で軸策末端から放出され,門脈下垂体循環を経てラクトトロフ細胞上のドパミンD2受容体に結合する 5)。
 今もなお統合失調症の原因に関する論議は収束しないが,抗精神病薬に共通する薬理機序は中枢ドパミンD2受容体遮断作用である 6)。薬剤が抗精神病薬としての作用を発揮するためには当然ながら中枢神経に到達する必要があり,血液脳関門(blood brain barrier;BBB)を通過しなくてはならない。このためすべての抗精神病薬はBBBを通過するが,一方で下垂体はBBBの外側に存在しており,抗精神病薬の一部は下垂体ラクトトロフ細胞表面上のドパミンD2受容体にも結合する。高プロラクチン血症は,PIFであるドパミンを抗精神病薬が遮断することによって生じると考えられている 7)。実際,BBBの通過性と抗精神病薬によるプロラクチン上昇作用の関連は動物 8)およびヒトの研究で報告されており,Arakawaらは[11C]FLB 457を用いたPET研究で,側頭葉と下垂体のドパミン受容体占拠率の比,すなわちBBBへの通過性の低さが抗精神病薬による高プロラクチン血症の生じやすさを反映していると報告した 9)。

2.第一世代抗精神病薬

 前述のように,以前は抗精神病薬治療による高プロラクチン血症は必発であったが,現在使用されている抗精神病薬は大きく分類して第一世代および第二世代に分類されている。クロルプロマジンなどのフェノチアジン系やハロペリドールなどのブチロフェノン系に代表される第一世代抗精神病薬は,すべてドパミン受容体に親和性の高いフルアンタゴニストである。このため,これらの薬剤の使用によりプロラクチンは確実に上昇する。ドパミン受容体への選択性および親和性がより高いブチロフェノン系抗精神病薬においてプロラクチン値はより上昇しやすく,高用量である場合,プロラクチン値はさらに上昇する。報告によって差はあるが,これら第一世代抗精神病薬の投与によってプロラクチン値は2~10倍程度まで上昇しうる 10)。
 第一世代抗精神病薬による高プロラクチン血症に対する唯一の対処法はブロモクリプチンなどのドパミン作動薬の追加投与であった。しかし,精神症状が悪化する可能性も否定できず,ガイドライン上は推奨されていない。

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る