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プロラクチンの生理・病理の新展開

胎盤由来のプロラクチン

沖本直輝舛本明生増山寿平松祐司

HORMONE FRONTIER IN GYNECOLOGY Vol.18 No.3, 39-45, 2011

Summary
 プロラクチン(PRL)は下垂体前葉からだけでなく胎盤でも産生され,羊水中のPRLは脱落膜細胞より移行していると考えられている。インスリン様成長因子(IGF-Ⅰ),インスリン,リラキシン,アラキドン酸やさまざまなサイトカインが脱落膜由来PRLの分泌促進や抑制に働き,下垂体由来のPRLとは異なる制御がなされている。
 胎盤では,23kDaのPRLは妊娠高血圧症候群(PIH)で高発現する傾向がみられた。一方,14kDaおよび16kDaの胎盤PRLはPIHでは発現がみられたが,正常妊娠では発現が認められなかった。妊娠中において胎盤由来のlong form PRL(23kDa)とshort form PRL(14kDa/16kDa)の不均衡が生じ,抗血管新生が優位になると子宮胎盤の血流不全が生じ,その結果,PIHが生じる可能性が示唆された。

Key words
●プロラクチン ●胎盤 ●妊娠高血圧症候群(PIH)

はじめに

 プロラクチン(PRL)は主に下垂体前葉から分泌され,乳汁分泌,排卵調節のほか免疫機能制御やストレス応答,母性行動など多岐にわたっての生理作用を有することが知られている。一方,下垂体前葉以外からも分泌されることがわかっており,胎盤もその臓器の1つである。また,われわれはこれまでに胎盤のPRL断片が妊娠高血圧症候群(pregnancy induced hypertension;PIH)の病態に関与している可能性について報告してきた。
 本稿では,これまでに報告された胎盤由来のPRLについての研究成果,特にPIHとの関連について概説する。

胎盤(脱落膜)由来のPRL

 PRLは下垂体前葉から母体血中に分泌され,乳汁分泌に代表されるさまざまな生理機能を有することが知られている。またPRLはさまざまな組織でも産生されることが知られている 1)。PRLはヒト羊水中にも存在し 2)3),母体血中PRL濃度は妊娠週数の進行に伴って増加し,妊娠30週頃に非妊娠時の約10倍に達してプラトーになり分娩に至るのに対して,羊水中のPRL濃度は妊娠13週頃より増加し,妊娠20週頃に血中濃度の約50倍(約4,000ng/mL)に達して,以降漸減していく 3)。このように血中と羊水中のPRL濃度の推移の相違もあり,羊水中のPRLの由来についての研究が行われている。
 Josimovichら 4)は,妊娠サルの母体,胎児,羊水にPRL放射線同位元素を注入して,その推移を検討し,羊水中のPRLは母体血中から移行していると推定した。また,Fangら 5)は,ヒト母体血,胎児血,羊水中のPRL分子量の比較分析から羊水中のPRLは胎児から移行したものであると結論づけた。しかしながら,Riddickら 6)がヒト妊娠脱落膜からPRLが分泌されることを報告し,さらに,免疫組織学的に脱落膜にPRLが局在することが証明された 7)-11)。これらの研究結果から,羊水中のPRLは脱落膜細胞から移行していることが有力であると考えられるようになった。
 また,下垂体由来のPRLの制御因子はドパミンや甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropin releasing hormone;TRH)であるが,これらは脱落膜由来のPRLに影響を与えないことがわかってきた。しかし,胎児,胎盤,脱落膜自身から分泌されるインスリン様成長因子(insulin like growth factor;IGF)-Ⅰ,インスリン,リラキシン,アラキドン酸やさまざまなサイトカインが脱落膜由来のPRLの分泌促進,あるいは抑制に働いていると報告されており 12)13),下垂体由来のPRLとは異なる制御機構がなされている。
 羊水中のPRLの役割についてはさまざまな研究がなされており,たとえばJohnsonらの報告 14)では,アカゲザルの母体にベタメタゾンを投与して胎児肺成熟を促した群と,非投与群の胎児肺の重量,肺胞強度,肺表面の弾性度や羊水中のlecithin/sphingomyelin比と羊水中のPRL濃度を比較したところ,胎児肺成熟の度合いとPRL濃度が相関しており,羊水中に放出されたPRLは胎児肺成熟の調節に関わっている可能性を指摘した。また,羊水中のPRLは陣痛発来後に低下することから,陣痛との関連も報告されている。またPRLは血管新生に関わっていることがわかり,PIHとの関連がいわれるようになってきた 15)16)。

PIHとPRL

 PIHは,血管内皮障害を特徴とする妊娠関連の全身疾患で母体に重篤な合併症(子癇発作,脳出血,常位胎盤早期剝離など)や胎児発育不全などを引き起こし周産期予後を悪化させる症候群である。現在も病態解明のためさまざまな研究がなされているが,いまだに不明な点が多い。
 しかしながら,近年の研究では血管新生のアンバランスが血管内皮障害を引き起こした結果,高血圧,蛋白尿,子宮胎盤血流不全などのPIHの臨床症状が表面化してくることが提唱されている 17)18)。そのためさまざまな血管新生因子とPIHとの関連が報告されている 19)-21)。Kogaら 19)は血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)のアンタゴニストとして作用するsoluble VEGF receptor(sVEGFR)-1の血中濃度を重症PIH群と正常妊娠群とで比較したところ,重症PIH群では正常妊娠群の6倍以上の濃度が検出され,両群とも出産後にsVEGFR-1濃度が著明に減少することを報告した。筆者らは,PIH患者では胎盤由来の抗血管新生因子であるsoluble fms-like tyrosine kinase(sFlt)-1,胎盤増殖因子(placental growth factor;PlGF),sFlt-1/PlGF比は,早発型PIHで遅発型PIHより有意に高くPIH発症の予測に有用であることを報告した 20)。
 主に分泌されるPRLは23kDaの分子量を有する単鎖のポリペプチドで,乳汁分泌や排卵調節などの機能のほかに血管新生に関わりがあることが知られている 22)23)。一方,23kDaのPRLから分解されてできる14kDa,あるいは16kDaのPRLのisoformも存在し,これらは逆に抗血管新生として働くといわれている 24)25)。またGonzálezら 26)は,妊娠後期のPIHの帝王切開時に採取した羊水中には16kDaのPRLが正常群と比較して約4倍であることを報告している。
 したがって妊娠初期の段階で23kDaのPRLと14kDa(16kDa)のPRLのアンバランス,すなわち抗血管新生が優位に働くと,らせん動脈への血流が減少しPIHを発症するという仮説が立てられた 22)27)。
 この仮説に基づき,PIH群と正常妊娠群での胎盤でのPRLの発現の違いについて検討 16)したので概説する。

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