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脳血管内治療の最前線

1.脳動脈瘤発生とCFD解析

石田藤麿鈴木秀謙

血栓と循環 Vol.20 No.3, 12-17, 2012

§論文のポイント

[1]脳動脈瘤の動物モデルでは,慢性炎症反応により脳動脈瘤が形成されることが知られており,特にNF-κBの活性化により炎症関連遺伝子の発現が亢進することが重要とされている.

[2]Computational Fluid Dynamics(CFD)解析では.脳動脈瘤壁におけるせん断応力Wall Shear Stress(WSS)を基本とし,WSS関連血行力学的パラメータを計算する.

[3]WSS関連血行力学的パラメータには,WSSベクトルのゆらぎを示すOscillatory Shear Index(OSI),WSSの分布の均一性を評価するせん断応力勾配WSS Gradient(WSSG),WSSGベクトルのゆらぎを評価するGradient Oscillatory Number(GON),瞬時WSSベクトルと時間平均WSSベクトルの作る角度で評価するAneurysm Formation Indicator(AFI)などがある.

[4]脳動脈瘤の発生には,高いWSS,高いWSSG,高いGON,低いAFIが関与している.

[5]ブレブは脳動脈瘤の発生とは異なる血行力学的メカニズムにより発生すると推測されている.


§キーワード
脳動脈瘤/数値流体力学/せん断応力/せん断応力勾配

はじめに

 未破裂脳動脈瘤のクリッピング術後に切除した脳動脈瘤の病理学的研究では,動脈瘤壁には免疫グロブリンや血管接着分子,Tリンパ球やマクロファージなどが存在していることが示されている1).また脳動脈瘤モデル動物を用いた解析から,脳動脈瘤の形成には慢性炎症反応が寄与していることが明らかになっている2).特に血行力学的ストレスにより活性化されたNF-κBは,monocyte chemoattractant protein-1などの炎症関連遺伝子の発現を転写レベルで亢進し,慢性炎症反応を惹起することにより,脳動脈瘤発生に重要な役割を果たすと考えられている.
 一方, CFD解析における最も重要なパラメータはせん断応力 Wall Shear Stress (WSS)で,近年3次元脳血管撮影や3次元CTアンギオなどの患者固有形状モデルでのシミュレーションが可能となった3).本稿ではCFD解析で得られるWSSやWSS関連血行力学的パラメータと慢性炎症反応との関係を中心に,脳動脈瘤の発生について解説する.

せん断応力 Wall Shear Stress (WSS)

 流体とは,「物質に力が加わったとき,自由に形状を変えることができるもの」であり,WSSとは,「血流が血管あるいは動脈瘤壁に及ぼす応力のうち,断面法線に垂直な成分」とされる(図1).

血液はWSSが血流速度勾配に比例するニュートン流体であり,その大きさは血流速度に依存する.WSSの大きさは心拍周期ごとに変動し,収縮期で最大で拡張末期で最低となるが,1心拍中の時間積分平均値や収縮期の最大値で評価されることが多い.動脈硬化に関する血行力学的検討では,正常動脈におけるWSSの大きさは1~7Paとされた4).またCFD解析による脳動脈瘤の研究では,ドームにおけるWSSは100Pa未満である.1Pa=0.0075mmHgであるため,親血管やドームのWSSは,血圧と比較すれば極めて小さな応力でしかない.しかし.血流が血管内皮細胞における生物学的応答に関与することは,1985年にFrangosらにより証明されており,拍動流ストレスの環境で培養された血管内皮細胞は,定常流ストレスと比較してプロスタサイクリン産生が2倍以上になることが示された5).さらに成長因子発現,接着分子発現,抗血栓活性,抗酸化作用,炎症関連遺伝子発現,アポトーシス誘導などの血管内皮細胞の機能と,血行力学的パラメータとの関連が明らかにされている4).

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