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脳卒中診療のパラダイムシフト─新たな疾患概念ACVSと新規治療戦略

Ⅰ.ACVS 3.ACVSのt-PA静注療法

青木淳哉木村和美

血栓と循環 Vol.20 No.2, 23-30, 2012

§論文のポイント

[1]1995年,NINDS studyは発症3時間以内の急性期脳梗塞例に対するt-PA静注療法の有効性を示した.わが国でもJ-ACTの結果を受け,2005年に同治療法は認可された.市販後調査J-MARSは海外と同様の成績を示している.

[2]ECASSⅢの発表によりt-PA静注療法の適応時間は発症3時間以内から4.5時間以内に拡大された.メタ解析はt-PA静注療法は発症4.5時間以内の急性期脳梗塞例で転帰を改善させることを確認した.

[3]MRI M1 SVSやDWI-ASPECTSはt-PA静注療法の再開通現象や転帰予測因子である.M1 SVSは心房細動,発症からの時間,抗凝固薬の使用,血糖,閉塞血管の部位で調整すると,唯一の独立した早期再開通現象に関する因子であった.

[4]MRIを用いた評価は①ペナンブラの評価や②発症時間の推定を可能とし,t-PA静注療法のさらなる適応拡大をもたらす可能性がある.

[5]t-PA静注療法と脳保護薬や超音波連続照射との併用療法に関する多施設試験が現在進行中である.


§キーワード
t-PA静注療法/NINDS study/J-ACT/ECASSⅢ/MRI/M1 SVS

発症3時間以内のt-PA静注療法

 1995年,National Institute of Neurological Disorders and Stroke(NINDS)studyは発症3時間以内の急性期脳梗塞例に対する経静脈的血栓溶解療法[recombinant tissue plasminogen activator(t-PA)静注療法]はプラセボと比較し,3ヵ月後の転帰良好例[modified Rankin Scale(mRS)0-1]を30%以上増加させると示した1).2005年,Japan Alteplase Clinical Trial(J-ACT)の結果を受け,わが国でも発症3時間以内の急性期脳梗塞例に対するt-PA静注療法は認可された2).以降,世界で広く市販後調査が行われt-PA静注療法の有効性を示している.
 ヨーロッパでは2007年にThe Safe Implementation of Thrombolysis in Stroke Monitoring Study(SITS-MOST)として報告された3).285施設6,483症例が登録され,3ヵ月後の転帰良好の頻度は39%であった.症候性頭蓋内出血は1.7%で,3ヵ月後の死亡率は11.3%であった.米国ではThe Standard Treatment with Alteplase to Reverse Stroke(STARS)studyが実施された4).57施設389症例の登録結果では,3ヵ月後の転帰良好の割合は35%,症候性頭蓋内出血の頻度は3.3%,30日後の死亡率は13%であった.カナダではCanadian Alteplase for Stroke Effectiveness Study(CASES)として60施設の1,135症例が検討された5).3ヵ月後の転帰良好例は32%,死亡例は22%.症候性頭蓋内出血は4.6%であった.
 わが国では,2007年10月までの2年間,942施設での7,492例が検討され,The Japan post-Marketing Alteplase Registration Study(J-MARS)として報告された6).投与量は欧米の2/3である0.6mg/kgであるが,3ヵ月後の転帰良好の確率は33%,36時間以内の症候性頭蓋内出血は3.5%であった.SITS-MOSTと同じ投与基準で解析すると,3ヵ月後の転帰良好例の頻度は39%であり,今までの報告と同等の成績であることがあらためて確認された(図1).

発症3~4.5時間以内のt-PA静注療法

 t-PA静注療法は,急性期脳梗塞例に対する第1選択の治療法であるが,実際に同療法を施行された脳梗塞例は全体の2%以下である.その最大の理由はt-PA静注療法の適応時間が発症から3時間以内に制限されていることである.
 適応時間の拡大を目的に,ヨーロッパでは1995年と1998年に,発症6時間以内の脳梗塞例を対象としたEuropean Cooperative Acute Stroke Study(ECASS),ECASSⅡが実施されたが,いずれも有効性を示すことはできなかった7)8).しかし,北米で行われた発症6時間以内の症例が登録されたThe Alteplase Thrombolysis for acute Noninterventional therapy in ischemic stroke(ATLANTIS)9)10)とNINDS study,ECASS,ECASSⅡに登録された2,775例をメタ解析すると,発症3~4.5時間以内のt-PA静注療法は,プラセボと比較しオッズ比1.4で転帰良好例を増やす可能性があった11).この結果を受け,発症3~4.5時間以内の急性期脳梗塞例に対するt-PA静注療法の有効性を検証するため,多施設無作為二重盲検試験(ECASSⅢ)が実施された12).結果,3ヵ月後の転帰良好例(mRS 0-1)の頻度は,t-PA静注療法群で有意に高かった[52%vs. 45%,オッズ比1.34(95%信頼区間1.02-1.76,p=0.04)].また,症候性頭蓋内出血の頻度はt-PA静注療法群で2.4%,プラセボ群では0.2%(p=0.008)であり,死亡率は両群で差はなかった(t-PA静注療法群7.7%vs. プラセボ群8.4%,p=0.68).
 ヨーロッパのレジストリーであるThe Safe Implementation of Thrombolysis in Stroke-International Stroke Thrombolysis Register(SITS-ISTR)を用いた後ろ向き研究も行われた13).t-PA静注療法を受けた12,529症例が登録されていたが,そのなかで何らかの理由で発症から3~4.5時間以内にt-PA静注療法を施行された664症例を検討したところ,3ヵ月後のmRS 0-2,症候性頭蓋内出血の頻度,死亡率の比率は,3時間以内にt-PA静注療法を受けた患者と同等であった.
 これらの報告を受け,American Heart Association/American Stroke Associationは,2009年にECASSⅢと同様に,18~80歳で,抗凝固療法内服中,NIHSSスコアが26点以上,脳卒中と糖尿病の両方の既往のある症例は除外した上で,発症3~4.5時間以内の急性期脳梗塞患者に対するt-PA静注療法は,行われるべきであると推奨した(クラスⅠ,エビデンスレベルB)14).
 一方でt-PA静注療法の治療効果は発症からの時間に依存していることを忘れてはならない.ECASS,ATLANTIS,NINDS,the Echoplanar Imaging Thrombolytic Evaluation Trial(EPITHET)をまとめた3,670例の解析の結果では,プラセボに比べt-PA静注療法の転帰良好のオッズ比は0~90分以内の投与では2.55,91~180分では1.64,181~270分では1.34と示されている15).

t-PA静注療法の転帰予測因子

1.M1 susceptibility vessel sign(M1 SVS)(図2)

 中大脳動脈閉塞と内頸動脈閉塞例での検討では,t-PA静注療法前のmagnetic resonance imaging(MRI)T2*で中大脳動脈起始部にM1 SVSがある症例では,同療法後の早期再開通現象の頻度は低かった16).そして,心房細動,発症からの時間,抗凝固薬の使用,血糖,閉塞血管の部位を多変量解析で調整したところ,M1 SVSは唯一の独立した早期再開通現象に関する因子であった17).われわれの施設ではM1 SVSを認めた場合は,t-PA静注療法を行わずに,血管内治療を行う研究を臨床研究として行っている.

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