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東日本大震災と血栓

4.岩手医科大学採血チームによる三陸沿岸被災者のDダイマー測定結果

柏谷元赤坂博秋富慎司高橋智小林誠一郎

血栓と循環 Vol.20 No.1, 26-34, 2012

§論文のポイント

[1]大震災後の3月下旬~6月中旬にかけて,岩手医科大学は主要被災地の避難所を巡回する採血検診を行った.

[2]血圧上昇者が多く,全体の6割に達した.高血圧内服治療者の方が健常者よりも高くなる傾向を認めた.

[3]脂質代謝に関しては,T-Cholが全体の約3割,TGが約4割で高値を示した.

[4]Dダイマー高値者は全体の25%であった.
自宅(通所)避難者より避難所生活者に多く認められ,居住スペースなどの環境因子が作用するものと考えられた.

[5]Dダイマー上昇は高血圧,高脂血症と合併することが多く,これらを指標としてDVT予備軍を抽出することが被災地では必要と考えられた.


§キーワード
東日本大震災/Dダイマー/DVT/避難所生活

はじめに

 今回の東日本大震災では,その被害が甚大かつ広域であったため避難所の数も岩手県沿岸で計364ヵ所(避難者総数42,360名,3月24日時点)とおびただしい数になった.さまざまな医療救護チームが急性,亜急性期の医療支援を敢行するなか,本学は避難所で困窮生活を強いられている被災者の健康を憂慮し,2次災害ともいえる避難生活起因疾患の発症を抑えるべく,巡回検診活動を行った.
 震災直後の3~5月までは,失われた通信インフラ,一方で多方面からの情報の混乱などがあり,巡回計画を立案するにも労を要した.その意味で岩手県で構築した“いわて災害医療支援ネットワーク”はその効果が大きかった1).それは,岩手県災害対策本部にわれわれ医師メンバーが医療班として中心部に入り,各部署横方向の連携を一体化したもので,自衛隊や医師会,日赤,県警,看護協会などと日夜ミーティングを重ね,一元化された情報の下で統括的指示を発するいわば司令塔的存在であった.このネットワークが県で唯一,被災地全体の医療状況を俯瞰しえる立場であったといっても過言ではない.われわれが行った避難所巡回検診もこのネットワーク機構の方針の下行われた.
 本稿では前半で本検診にて得られた被災者検診結果の全体像を示し,後半でDダイマー値に関する報告を述べる.津波災害が主体となった東北の一部地域のデータではあるが,今後の大災害発生時の参考となれば幸いである.

対象,方法

 3~6月にかけて本学が行った避難所検診の被験者は計1,435名であった(表1).

医師,看護師,検査技師,薬剤師,事務員がチームを結成し,あらかじめ通知しておいた避難所を巡回し,検診希望者に対して問診,血圧脈拍測定,採血(表2)を行った.結果については選任された本学内科系医師が個人ごとの評価・判定を行い,検診結果票として被験者に個別郵送した.

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