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データブック アテローム血栓症の大規模臨床試験 PART3

8.薬物療法・副作用など a.薬物療法 4.新規治療薬トロンボモジュリンの二重盲検試験解説

丸山征郎

血栓と循環 Vol.19 No.3, 256-261, 2011

出 典
Saito H, et al:
Efficacy and safety of recombinant human soluble thrombomodulin (ART-123) in disseminated intravascular coagulation:results of a phase Ⅲ, randomized, double-blind clinical trial.
J Thromb Haemost 5(1):31-41, 2007
Aikawa N, et al:
Thrombomodulin alfa in the treatment of infectious patients complicated by disseminated intravascular coagulation: subanalysis from the phase 3 trial.
Shock 35(4):349-354, 2011

※図表に関しましては、割愛させていただいております。

要 約

 播種性血管内凝固症候群(DIC)は悪性腫瘍や感染症,外傷などの重篤な基礎病態に,文字通り,“種を播いたように”微小血管内に血栓が発生した特異な病態に注目して確立された疾患概念である.この“種を播いたように”は,単に空間的に血栓(フィブリン)が播種しているということだけではなく,時間的にも“播種”である.すなわち繰り返し,あるいは持続性に凝固系が活性化されて,(微小)血管部位に血栓,あるいは凝固・線溶系因子,血小板が消耗されて出血を来す病態である.この症候群に対しては,恒常性が破綻した凝血系の制御が困難であることもさることながら,基礎疾患も重篤であることから,その診断・治療に関する取り組みには本邦以外の諸国では熱心でなかったといっても過言ではない.しかし近年になって,DICの治療薬が今回の課題である組換えトロンボモジュリンをはじめ,アンチトロンビンや活性化プロテインC,分画化ヘパリンやヘパリン類似体が次々に開発されてきたこと,さらにDICそのものの治療が,原疾患における病巣部へのドラッグデリバリー効率を上げ,原疾患の治療向上にもつながることということなどが判明してきて,欧米諸国でもDICの基礎と臨床両面での取り組みが進行しつつある.
 本稿では,本邦で世界に先駆けてDICの治療薬として認可された組換えトロンボモジュリン(TM)に対する2つの治験(第Ⅲ相二重盲検試験)について解説する.

DIC発症とDAMPs,PAMPs

1.DIC発症のアクセラレーターとしてのHMGB1
 DICという病態は,種々の疾患や病態を基盤として,血管内で凝固カスケードが時間的,空間的に活性化されて,“播種”する病態であることは上述した.一方DICでは血中炎症性サイトカイン(IL-1β, IL-6など)も上昇していること,逆に全身炎症性の病態であるSIRS(Systemic Inflammatory Response Syndrome)にDICを併発しやすいことなどの事実からDICという病態は,単に血管内凝固系の活性化のみならず,炎症系も多くの場合に活性化されている病態であることがわかる.この凝固系と炎症系のリンケージとしてはDICで生成されたトロンビンがトロンビン受容体(Protease Activated Receptor-1, PAR-1)を,F.Ⅹa がその受容体であるPAR-2を活性化することなどの機序が考えられてきている.
 一方,筆者らは,代表的DAMPs(Damage Associated Molecular Patterns)である核内DNA結合蛋白HMGB1(High Mobility Group Box PProtein-1)がDIC発症のアクセラレーターとして作用することを見出した.HMGB1は侵襲に伴う活性化マクロファージや樹状細胞,あるいは壊死細胞から放出され,侵襲部位の“止血,自然免疫そして修復”のアジュバントとして作動する蛋白(Lotze MT, et al:Nat Rev Immunol 5:331-342, 2005)であるが(図1),これが侵襲局所から循環血中に侵入して全身を循環すると,遠隔臓器に炎症と凝固が転移され,トロンビンの血栓形成活性と相乗して,DIC/SIRS,MOFを発症することを教室の伊藤らは検証した(Ito T, et al:J Thromb Haemost 5:109-116, 2007).すなわち閾値以下のトロンビンでも,同時にHMGB1が存在するとDIC発症に至るということである.これは実験動物のみならず,ヒトの症例でも証明された.すなわち何らかの基礎疾患に加えて,その増悪や感染などが合併したときに,DICが発症するということを示唆している.このようなことから,HMGB1もまた重要なDIC発症のkey moleculeである.
2.DIC発症とPAMPs(Pathogen Associated Molecular Patterns)
 DICが諸種の感染症に合併しやすいことは周知の事実である.特に大腸菌をはじめとするグラム陰性菌感染症ではエンドトキシン(lipopolysaccharide, LPS)がDICを惹起しやすいことは周知であるが,それは感染症時に微生物の種々な分子がPAMPs(Pathogen Associated Molecular Patterns)として働いてToll-like receptors(TLRs)を活性化して,基本的にはNF-κBを活性化し,組織因子やフィブリノゲンなどの発現を増強するからである.
3.トロンボモジュリンはトロンビンのみでなく,HMGB1, LPS をも制御する
 以上DICはトロンビンの他に,代表的DAMPsであるHMGB1や PAMPs が共同してDIC発症の引き金を引くわけであるが,非常に興味あることにTMは,トロンビンのみでなく,代表的なPAMPs/DAMPsであるHMGB1, LPSをも制御することが判明してきた(図2).すなわち,

①TMのE456部位にトロンビンを結合させ,トロンビンを凝固酵素から抗凝固酵素へとベクトル変換する.E456に結合したトロンビンはもはや凝固活性や血小板活性化能が消失し,逆にプロテインC(PC)活性化能が著しく促進される.活性化PC(APC)はF.Ⅴa, Ⅷaを分解するほか,受容体(PAR-1), EPCR1(Endothelial PC receptor)を介して,抗炎症,細胞保護的に作用する.

②HMGB1はTMのN末端,レクチン様ドメインにHMGB1は結合し,その催炎症活性を失う(Abeyama K, et al:J Clin Invest 115:1267-1274, 2005/Ito T, et al:Arterioscler Thromb Vasc Biol 28:1825-1830, 2008).

③LPS(リポポリサッカライド,エンドトキシン)もTMのレクチン様ドメインに結合し,その活性を失う(Shi CS, et al:Blood 112:3661-3670, 2008).

 これら最近のTMを巡る新展開を念頭において,遺伝子組換えTMの二重盲検テストとそのサブ解析をみてみよう.

ヘパリンを対照薬とした組換えTMの二重盲検試験
(Saito H, et al:J Thromb Haemost 5:31-41, 2007)

1.臨床試験の概要
①対象:厚生省DIC診断基準でDICと診断された232例.

②投与法:TM群:380U/kg,1日1回30分間点滴静注,ヘパリン群:8U/kg/hr,ダブルダミー法.

③投与期間:6日間
④主要評価項目:DIC離脱率(非劣性の検証)
⑤副次的評価項目:出血症状の経過,転帰,凝血学的検査値改善など
2.結果

①主要評価項目:造血器悪性腫瘍,感染症におけるDIC離脱率は図3のごとく,TM群のヘパリン群に対する非劣性が証明された.

②副次的評価項目
a)経過中の出血症状消失率はTM群35.2%,ヘパリン群20.9%であった.
b)28日目の転帰

  28日目の死亡率は,造血器悪性腫瘍ではTM群17.2%,ヘパリン群で18%,感染症でTM群28%,ヘパリン群34.5%であった.

c)凝血学的検査値に対する効果(図4)

  トロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT)変化率,Dダイマー変化率,プロテインC変化率,アンチトロンビン変化率,PAI-1変化率に関しては図4に示すごとく,TM群での改善傾向がみられた.

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