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データブック アテローム血栓症の大規模臨床試験 PART3

3.脳 a.頸動脈・脳動脈硬化 6.無症候性頸動脈高度狭窄例に対する脳卒中発症予防に対する最善の治療は,内科的(非手術的)介入である:系統的文献レビューとその解析結果より

横田千晶峰松一夫

血栓と循環 Vol.19 No.3, 133-136, 2011

出 典
Abbott AL:
Medical(nonsurgical)intervention alone is now best for prevention of stroke associated with asymptomatic severe carotid stenosis:results of a systematic review and analysis.
Stroke 40(10):e573-583, 2009

※図表に関しましては、割愛させていただいております。

要 約

背景

 無症候性頸動脈高度狭窄症とは,過去に脳卒中や一過性脳虚血発作(TIA)の症候のない,内頸動脈近位部の50~60%を超える動脈硬化性狭窄を意味する.本症は,欧米においてこの50年間増加し,80歳以上の高齢者の10%に合併している.
 1983~2003年に行われた3つの大規模ランダム化試験である,Veterans’Affairs Cooperative Study(VACS),Asymptomatic Carotid Atherosclerosis Study(ACAS),Asymptomatic Carotid Surgery Trial(ACST)の結果を受けて,多くの国において,無症候性頸動脈高度狭窄例に対しては,脳梗塞発症予防のための頸動脈内膜剥離術(CEA)がガイドラインで推奨されている.当初CEAと内科的介入により,年率平均1%程度の脳卒中発症リスクの低減が見込まれたが,実際にはそれほどのリスクの低減がなかったことから,近年この高価な治療法に対して疑問が生じてきた.現在では,高価で合併症率も高い頸動脈形成術/ステント術が,ランダム化比較試験で検証されないまま,脳卒中発症予防に対する最善の介入と考えられている.
 動脈硬化性血管疾患に対する内科的介入とは,非侵襲的な戦略で血管疾患を制圧しようというものであり,教育,生活指導,薬物療法などが含まれる.本項では以下の3点を目標とした系統的レビューおよび解析を行った.

①内科的介入のみを受けた無症候性頸動脈高度狭窄症例の経時的な脳卒中(+/-TIA)発症率と危険因子合併率を調べる.

②上記1の脳卒中(+/-TIA)発症率を大規模ランダム化試験でのCEA例での発症率と比較する.

③脳卒中発症予防に対する内科的介入のみの費用効率を大規模ランダム化試験でのCEAと内科介入での費用効率と比較する.

方法

1.文献検索方法
 1年間の平均脳卒中発症率が算出されており,画像診断によって脳外科手術および,血管形成術/ステントを行っていないと確認された,無症候性内頸動脈近位部高度狭窄例の前向き研究をMedlineで検索した.「無症候性」の定義は,責任血管病変と同側の脳卒中もしくはTIAの既往がないことであり,反対側もしくは椎骨脳底動脈系の脳卒中,TIA,臨床症状のない画像上の脳卒中は無症候に含めた.
2.統計解析
 年平均脳卒中(同側,全領域)発症率を生データ(イベント数,サンプルサイズ,観察期間)とKaplan-Meier解析を用いて別個に算出した.血管造影のリスクは除外した.登録時の危険因子(年齢,性,高血圧など),内服薬(降圧薬,抗血小板薬など)の有無を調べた.年平均脳卒中発症率,危険因子合併の年次推移を直線回帰で求めた.病院統計や塞栓源心疾患合併例は住民統計に比べて脳卒中発症率や危険因子合併率が高いと考えられたので,これらは別に分けて解析した.
3.イベント発生率の比較
 内科的介入群との比較は,外科的介入が有意に良好との結果が得られた大規模ランダム化試験であるVACS,ACAS,ACSTのデータを用いて行った.
4.内科的介入の費用効率
 大規模ランダム化試験での内科的介入とCEAの費用効率分析を用いて検討した.

結果

1.対象
 11研究(病院統計10,住民統計1)を対象とした.サンプルサイズは113~1,115例であり,症例総数は3,724例(平均年齢66歳,病院統計3,539例,住民統計185例)である.
2.脳卒中/TIA発症率の年次変化
 2つの方法(生データ,Kaplan-Meier解析)で算出された年平均脳卒中(同側,全領域)発生率を比較すると,生データの方がばらつきなく適切と判断された.生データで算出された年平均脳卒中発生率をそれぞれの研究が出版された年代にプロットした(図1).各イベント発生率の低下は,同側性脳卒中(1985~2005年で1.4%),同側性脳卒中/TIA(1985~2005年で7.0%),全領域を含む脳卒中(1986~2007年で2.3%),全領域を含む脳卒中/TIA(1986~2005年で4.2%)のすべてで有意であった.これらの変化は病院統計に限定しても同様の変化であった.脳外科手術例でのイベント発生率を各々生データより計算して図に点線として示した(X軸に平行線).同側脳卒中発生率は2001年より内科的介入群が外科群を下回り,同側性脳卒中/TIA発生率は2005年で外科群とほぼ同様であった. Kaplan-Meier解析でも同様の検討を行ったが,生データの結果と同様であった.
3.登録時の危険因子合併,抗血小板薬内服の年次変化
 1986~2005(2007)年で頻度が有意に増加したのは,高コレステロール血症,高齢者,抗血小板療法施行,高血圧合併であり,逆に有意に低下したのは喫煙率,虚血性心疾患,心房細動合併,男性,末梢血管疾患合併であった.糖尿病と非同側性脳卒中/TIA発生の既往例には変化はなかった.これらの検討を病院統計に限って行うと,高コレステロール血症に年次変化がみられなくなった以外は同様の結果であった.
4.内科的介入の費用効率
 内科的介入例における費用効率は,対象例が追跡期間中,同種の内服薬のうち最も高価で最高用量を使用したと仮定して計算した.同側性脳卒中発生予防に対する内科的介入にはAU$179,000,全領域の脳卒中にはAU$83,750,同側脳卒中/TIAにはAU$38,000,全領域の脳卒中/TIAにはAU$64,000と計算された.
 CEAに関しては,同側性脳卒中発生予防にはAU$600,000,全領域の脳卒中にはAU$650,750,同側脳卒中/TIAにはAU$320,000,全領域の脳卒中/TIAにはAU$242,000と計算された.以上の結果から,内科的介入のみでは脳外科的介入に比べて,少なくとも脳卒中発症に対しては3~8倍,脳卒中/TIAに対しては4~8倍安くて済むと見積もられた.

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