<< 一覧に戻る

データブック アテローム血栓症の大規模臨床試験 PART3

2.心臓 b.血栓溶解療法 2.CYP2C19機能欠失変異保持者およびPPI服用者におけるクロピドグレル服用症例の心血管イベントリスク

後藤信哉

血栓と循環 Vol.19 No.3, 70-71, 2011

出 典
Hulot JS, et al:
Cardiovascular risk in clopidogrel-treated patients according to cytochrome P450 2C19*2 loss-of-function allele or proton pump inhibitor coadministration:a systematic meta-analysis.
J Am Coll Cardiol 56(2):134-143, 2010

※図表に関しましては、割愛させていただいております。

要 約

背景

 クロピドグレルは世界中にて広く使用されている抗血小板薬であるが,長らくその作用メカニズムが未知であった.作用メカニズムの解明後も,クロピドグレルの抗血小板作用であるP2Y12ADP受容体産生に至る代謝経路には未知の部分が多かった.近年,クロピドグレルの活性体の産生速度に影響を与える代謝酵素が明らかにされた.代謝酵素には遺伝子多型がある.活性体産生速度の低い遺伝子多型の症例では,クロピドグレルの薬効が十分に発現しない可能性もある.また,クロピドグレル活性体の産生に寄与する酵素は,代表的なプロトンポンプ阻害薬であるオメプラゾールと競合する.オメプラゾールを併用するとクロピドグレルの薬効が低減することも危惧される.これらはいずれも架空の危惧かも知れないが,科学的真実かも知れない.本研究では臨床的視点からこれらの危惧の真実性が検証された.

対象

 本研究は文献に基づいたメタ解析(というより,文献と抄録のreview)である.代表的な臨床研究データベースであるMEDLINE(1966~2009年10月1日)およびCochrane Library(1980~2009年10月1日)にて,検索語“clopidogrel”に以下の検索語(“cytochrome P450 2C19”“CYP2C19”“proton pump inhibitors”“proton pumps”)を組み合わせて,clopidogrel長期投与を受けている患者において,有害事象とCYP2C19*2機能喪失変異またはPPI併用の関連を記述した論文を全言語から検索した.論文と発表された研究に限局せず,循環器関連の主要学術集会(AHA,ACC,ESC,TCT)抄録のレビューも行った.対象とされたのは,上記の基準にて選択された23試験に登録された55,529例で,そのうち10試験(コホート研究8件,RCTのpost hoc解析2件),11,959例では,代謝酵素CYP2C19*2機能喪失変異を有する症例と有しない症例の比較が,13試験(コホート研究9件,+RCTのpost hoc解析3件,症例対照研究1件),48,674例ではPPI投与群と非投与群の比較が行われた.

結果

 対象症例のうち,CYP2C19*2変異保有は3,418例(28%)に認められた.この機能喪失変異保有者では心血管イベント発症例が331例(9.7%)と,非保有者672例(7.8%)よりも高かった(OR 1.29,95%CI 1.12-1.49,p<0.001).しかし,差異のある試験と差異のない試験など結果には大きなばらつきが認められた.試験間の不均一性が認められた(不均一性p=0.003).なお,ステント血栓症発生率は機能喪失変異保有者41例(2.9%)と非保有者30例(0.9%)比較して高かった(OR 3.45,95%CI 2.14-5.57,p<0.001,不均一性p=0.78).全死亡率は機能喪失変異保有者では32例(1.8%)と,非保有者46例(1.0%)に比較して高かった(OR 1.79,95%CI 1.10-2.91,p=0.019,不均一性p=0.063).CYP2C19*2変異保有者における心血管イベントリスクの高さは変異がヘテロ接合体,ホモ接合体のいずれであっても明らかであり,ベースラインの心血管リスクとは独立していた.
 PPI併用例と非併用例の比較ではPPI併用例が19,614例(42%)に認められた.主要心疾患イベントの発生率はPPI併用例では4,285例(21.8%)と,非併用者4,424例(16.7%)と比較して高かった(OR 1.41,95%CI 1.34-1.48,p<0.001).しかし,差異の有無については試験間の不均一性が認められた(不均一性p<0.001).死亡率はPPI併用者1,228例(12.7%)と,非併用者1,059例(7.4%)に比較して高かった(OR 1.18,95%CI 1.07-1.30,p<0.001,不均一性p=0.13).PPI併用者におけるリスク上昇はベースラインの心血管リスクと有意に関連していた.
 全データを統合して解析すると,CYP2C19*2変異保有またはPPI併用では主要心血管イベント,死亡リスクともに高かったが試験間の不均一性も高かった.

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る