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データブック アテローム血栓症の大規模臨床試験 PART3

1.動脈硬化とイベント発症 11.末梢動脈疾患を有する高齢患者における症状の有無による死亡と血管イベント発症の比較検討

進藤俊哉

血栓と循環 Vol.19 No.3, 47-50, 2011

出 典
Diehm C, et al. German Epidemiological Trial on Ankle Brachial Index Study Group:
Mortality and Vascular Morbidity in Older Adults With Asymptomatic Versus Symptomatic Peripheral Artery Disease.
Circulation 120:2053-2061, 2009

※図表に関しましては、割愛させていただいております。

要 約

背景

 粥状硬化症は冠状動脈や脳血管,下肢動脈に病気をもたらす全身疾患であり,それによる死亡や疾病を防ぐことは非常に重要である.そのなかで末梢動脈疾患(PAD)は今まで長い間その危険性の認識は低く,かつ発症率も低いとされてきた.しかし最近の大規模な疫学的調査によれば,高齢者や糖尿病合併患者,心血管疾患の危険因子を有する患者ではPADが高率で認められることが判明してきた.そしてPADそれ自体が死亡や血管イベント発症の危険因子であることが示されてきているが,その一方で,症候性PAD患者と無症候性PAD患者の予後の差は充分明らかにされていない.本研究の目的は,ドイツで初期診療(primary care)を行った高齢者を調査し,無症候性PAD患者と症候性PAD患者の死亡率と心血管イベントの発症をPADのない患者と比較することにある.

対象と方法

 German Epidemiological Trial on Ankle Brachial Index (getABI)は2001年10月に始まった前向きのコホート観察研究である.まず簡単な問診により心血管イベント(心筋梗塞,冠状動脈疾患の治療歴),脳血管疾患(脳梗塞と頸動脈血行再建術),下肢動脈イベント(PADによる切断歴と血行再建術),間歇性跛行(歩行時疼痛と10分の安静による軽快),その他の危険因子(高血圧症,糖尿病,脂質異常症,喫煙)の有無を調べた.
 ABIはAHAのガイドラインに従って両下肢測定し,その低い方の値を分析に用いた.無症候性のPADは,安静時ABIが0.9未満で,かつ下肢血管疾患のイベントがなく間歇性跛行もないものと定義した.症候性PADはABIの値と関係なく,間歇性跛行や下肢血行再建手術歴,PADのための切断歴のあるものと定義した.「PAD全体群」は「無症候性PAD」と「症候性PAD」の合計とした.
 重症血管イベントは心血管イベント,脳血管イベント,下肢血管イベントと定義し,6ヵ月後,1年後,3年後,5年後に調査した.イベント発生率は患者1,000人あたり1年間の発生率として計算し,5年間で平均して示した.比較したのは「PADなし群」,「PAD全体群」,「症候性PAD群」,「無症候性PAD群」の4群と,ABIの「1.1~1.5」,「0.9~1.1」,「0.7~0.9」,「0.5~0.7」,「0.5未満」の5グループである.

結果

 6,880名が登録されたが,ABI>1.5の59名は除外した.5,392人(79.0%)がPADなし群,836人(12.2%)が無症候性PAD群,593人(8.7%)が症候性PAD群であった.3群間で年齢や危険因子に差はなかったが,症候性PAD群で男性,喫煙,心血管イベント歴,脳血管イベント歴が多かった.
 1,000人・1年間あたりの全死亡は,PADなし群で19.5,無症候性PAD群で41.7,症候性PAD群で53.0であった.PADなし群に対する危険率(HR)は無症候性PAD群で1.66,症候性PAD群で1.89であった.死亡と重症血管イベントを併せた検討では,1,000人・1年間あたりでPADなし群で27.2,無症候性PAD群で60.4,症候性PAD群で104.7であり,PAD群でPADなし群に比べ有意に高かった(図1).症候性PAD群と無症候性PAD群の間では,心筋梗塞,脳梗塞,切断,頸動脈血行再建には差がなかったが,冠状動脈と末梢血管血行再建には差がみられた.
 ABIカテゴリーの検討では1.1<ABI<1.5群で最も低いイベント発生率(24.3/1,000人/年)であり,ABIが下がるにつれてイベント発生率は上昇し,ABI<0.5では6倍のイベント発症率となった.
 男性,心血管・脳血管イベント歴,喫煙,高ホモシスチン血症は全死亡・重症血管イベントに対する有意な危険因子であったが,これらを調整した後ではPADは最も強い独立した危険因子(HR:2.17)となった.

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