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血栓と循環の検査法

第45回 血管内皮機能シリーズNo.10 脳動脈における血管内皮機能測定

北山次郎北園孝成

血栓と循環 Vol.19 No.1, 237-240, 2011

はじめに
 脳へは心拍出量の約15%もの血流が賄われている.体重の2%程の臓器である脳にこれだけ豊富な血流が供給される理由は,脳がvital organであり,その活動維持に多くのエネルギーを要するためにほかならない.すなわち神経活動の本態である膜電位を作り出すために多大なATPが必要で,その源として常にブドウ糖と酸素を消費するためである.一方,脳内にはこれらの基質を十分にストックしておくメカニズムが備わっておらず,高度の虚血は早期に不可逆的な神経細胞の障害をもたらす.このため,脳には血流維持のためのさまざまな機能が備わっている.その1つが解剖学的にはWillis動脈輪であり,主幹動脈の血流障害に対して左右の大脳半球間の,あるいは前後方の循環系間の側副血行の形成を潜在的に容易にしている.生理学的には脳血流自動調節能をはじめとした血流調節機構が挙げられる.代謝や血行動態の変化などさまざまな刺激は迅速,かつ柔軟に血管径を変化させ,組織に必要な血流を維持する.近年脳の生理機構を捉える場合,“neurovascular unit”として神経細胞や血管内皮細胞,周皮細胞,グリアなどが織り成すユニットとしての機能が注目されているが,脳血流の調節に対する脳動脈内皮細胞の果たす役割は非常に大きい.本稿では内皮機能の評価に関して実験ならびに臨床面における概略を述べたい.

脳動脈の血管内皮

 他の血管床同様,脳血管においても内皮細胞はさまざまな刺激に対して血管作動因子を産生・放出し,血管の拡張あるいは収縮反応を引き起こすことで血流の維持,調節に重要な役割を果たす.なかでも内皮由来血管拡張因子(endothelium-derived relaxing factor:EDRF)であるNO(nitric oxide)や,内皮由来過分極因子(endothelium-derived hyperpolarizing factor:EDHF),プロスタサイクリンは血管平滑筋に作用してそのトーヌスを低下させ,安静時血流量の維持や内皮依存性の血管拡張反応を介した脳血流増加に大きく影響している1)2).アセチルコリン(acetylcholine:ACh)やブラジキニン,ADP等は内皮細胞型のNO合成酵素(nitric oxide synthase:NOS)を活性化し,NO産生を介した内皮依存性の脳血管拡張反応を生じる.NOは血管拡張のみならず血小板や白血球の血管壁への接着や凝集抑制,抗血栓効果も有しており,血管内皮細胞の障害はさまざまな病態との関連が示唆されている1)2).

実験系における脳血管内皮機能測定

 動物実験において脳の内皮機能を評価する場合,ex vivoやin vivoにおいて内皮依存性,非依存性のアゴニスト等に対する血管の張力,あるいは血管径の変化を観察する方法がある(なお,対象とする動物の種類や同じ脳血管でも部位によって反応の違いが認められるため注意が必要である).
 例えばin vivoにおいて血管拡張反応を観察する方法として,筆者らは頭窓法を用いた実験系を用いてきた.麻酔下の動物の脳動脈[ラットの場合は脳底動脈3)4)(図1),マウスの場合は大脳表面の中大脳動脈分枝の軟膜動脈5)-7)]直上の頭蓋骨に開放窓を作成し,呼吸・循環,体温,脳温などの生理的条件を一定に保ち,窓内を人工髄液で灌流する.

灌流人工髄液に混じて各種の血管作動物質を窓内へ投与し,実際に生じる血管径の変化を実体顕微鏡下に記録,測定することで内皮機能を評価する.例えば,高血圧自然発症ラット(stroke-prone spontaneously hypertensive rat:SHR-SP)の脳底動脈はNO 供与体であるSNP(sodium nitroprusside)によって正常血圧ラット(Wistar-Kyoto Rat:WKY)と同様の血管拡張反応を呈するが,AChに対する反応は有意に抑制される(図2AB).

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