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血栓症に関するQ&A PART6

9.その他 Q72 糖尿病と肺機能の関係について教えてください

野間聖丸山征郎

血栓と循環 Vol.19 No.1, 235-236, 2011

Answer
はじめに

 糖尿病は,「インスリン作用不足による慢性の高血糖により,種々の代謝異常を伴う疾患群」と定義されている.さまざまな合併症が糖尿病により起こるが,なかでも血管障害は重要な合併症であり,生命に関わることはよく知られている.血管障害は,微小血管やコラーゲンが高血糖状態にさらされ,糖化されることで発症すると考えられている.
 一方,肺は広大な血管床をもち,コラーゲンやエラスチン等の膠原線維が豊富な臓器であるが,糖尿病合併症としての肺機能および血管障害のデータは,いまだ少なく,報告によって違いが存在する.

糖尿病の肺機能への影響

 糖尿病患者と肺機能検査に関する40スタディのメタアナリシスが2010年に報告された1).この論文では,3,182人の患者群と27,080人のコントロール群の比較データを解析したところ,表1が示すように,拘束性パターンの肺機能低下および拡散能低下が糖尿病患者群でみられたと報告している.

また,喫煙者であるかどうか,Body mass index(BMI),糖尿病の罹病期間あるいはHbA1c値でサブ解析を行ったが,糖尿病患者群とコントロール群の間に,各肺機能検査での違いはみられなかった.
 糖尿病における肺機能障害の原因として,2つの病態生理学的なメカニズムが関与していると考えられている.まず,胸郭や肺は,コラーゲンやエラスチンが豊富であるため,非酵素的糖化(nonenzymatic glycaion)により,胸郭や肺実質の硬化を起こすことが原因である可能性が考えられている.また,糖尿病患者の剖検の肺病理組織像で,肺胞上皮と肺血管基底膜の両方が肥厚していることが判明しており,腎臓・網膜・神経と同様に,微小血管のダメージから,肺血管症(pulmonary angiopathy)を合併することが原因として考えられている.さらに,間質の肥厚による換気血流のミスマッチが原因となり,ガス交換(拡散能)の障害が起こると考えられている.
 拘束性パターンの肺機能障害を示す疾患としては間質性肺炎が,閉塞性パターンを示す疾患としては慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支喘息が知られている.糖尿病患者が拘束性パターンの肺機能低下を示す理由として,間質性肺炎と同様に,肺間質を主座とした肺構造のリモデリングが関与している可能性が考えられる.

糖尿病における炎症性疾患の側面と肺機能との関係

 糖尿病は,炎症性疾患としての側面をもっているため,慢性炎症により,全身の血管障害を起こす可能性について記載する.
 Wannametheeらは,2型糖尿病患者における,肺機能と冠動脈疾患イベントに関する前向き研究2)を報告している.この研究では,心疾患や脳血管障害の既往のない,40~59歳,4,434人の患者を20年間追跡したところ,努力肺活量と1秒量が低下している拘束性パターンの肺機能障害を示す患者ほど,致死的な冠動脈疾患を起こす相対リスクが高かったことが報告されている.致死的な冠動脈疾患の発症と,心疾患発症に関与するリスクファクターとの間には,相関が見られなかった.また,非喫煙者でも冠動脈疾患が発症しており,肺機能の低下とCRP(C-reactive protein)およびインターロイキン-6(interleukin-6:IL-6)が有意差をもって逆相関していたことから,糖尿病による慢性炎症状態が,肺機能の低下と冠動脈疾患発症に関与した可能性が考慮されている.
 一方,糖尿病患者におけるCRPと努力肺活量の間には,相関が見られなかったという報告3)や,非喫煙者で呼吸器疾患の合併のない,1型および2型糖尿病患者の気管支肺胞洗浄液の細胞分画を測定したところ,正常範囲内であり,炎症細胞の増加はみられなかったとの報告4)もある.
 現時点では,炎症疾患としての糖尿病と肺機能に関する病態生理については,不明な点が多く,今後さらなる研究が期待される.

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