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血栓症に関するQ&A PART6

9.その他 Q69 「血管不全」について教えてください

豊田茂井上晃男野出孝一

血栓と循環 Vol.19 No.1, 226-228, 2011

Answer
はじめに

 高血圧,糖尿病,脂質異常症,喫煙などの古典的危険因子やメタボリックシンドローム,慢性腎臓病,閉塞性睡眠時無呼吸といった新たな危険因子を有することで(表1),血管内皮機能障害が惹起される.血管内皮機能障害は動脈硬化の初期段階であり,さらに炎症や酸化ストレス,局所のレニン-アンジオテンシン系活性化に代表される血管代謝異常などの病態が複雑に絡み合い,血管平滑筋細胞が増殖し,血管壁が肥厚することで血管内腔に狭窄を来す.

また血管壁にプラークが形成され,このプラークが不安定化し,ついには破綻を来すことで心筋梗塞・脳卒中などの心血管イベントが発症する.危険因子から心血管イベントに至るさまざまな病態は,かつてはそれぞれ別個に議論されることが多かったが,これら血管内皮機能不全・血管平滑筋機能不全・血管壁代謝不全を包括したのが2006年に野出・井上らが提唱した“血管不全-vascular failure-”という概念である1) (図1).

血管内皮機能不全

1.血管内皮の解剖と生理について

 血管は血液を全身に運ぶ臓器であり,その血管壁は血管内皮細胞からなる内膜,平滑筋細胞からなる中膜,膠原線維,線維芽細胞などからなる外膜の三層構造を示す.血管内皮は解剖学的には血管壁の最も内側に位置しており,血管内皮細胞による一層の細胞層より成っている.全身の内皮細胞すべてを一列に並べると全長で10万㎞,一面に敷き詰めると面積はアメリカンフットボール競技場一面に相当する.
 内皮細胞は単なる血管壁構成成分ではなく,血管トーヌス調節,血管透過性調節,酸化ストレスからの防護,血球接着や遊走の調節といったさまざまな生物学的活性を有している.1980年代以降,血管内皮からは血管収縮因子や血管拡張因子といったさまざまな生物活性物質が産生・分泌されることが明らかにされた.血管収縮因子としてはアンジオテンシンⅡ,エンドセリン,トロンボキサンA2,プロスタグランジンH2などが,血管拡張因子として一酸化窒素(Nitric oxide:NO),プロスタグランジンI2,C型ナトリウム利尿ペプチド,内皮由来過分極因子(endothelium-derived hyperpolarizing factor:EDHF)が知られている.正常な血管内皮は血管の拡張と収縮,血管平滑筋の増殖と抗増殖作用,凝固と抗凝固作用,炎症と抗炎症作用,酸化と抗酸化作用を有しており,これらのバランスによって血管トーヌスや血管構造の調整・維持に働いている.

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