血栓症に関するQ&A PART6
8.薬剤 Q67 抗血小板薬の併用療法の適応,効果,安全性についてご説明ください
血栓と循環 Vol.19 No.1, 221-224, 2011
Answer
はじめに
高齢化社会への移行に伴い,虚血性疾患のみならず出血性疾患を併せ持つ患者が増え抗血栓療法を取り巻く環境は複雑化し,個々の患者に適した抗血小板薬の変更・追加の判断が困難な事例も増えている.
脳・心血管イベントの二次予防としてアスピリンの有用性を示すデータは多く,国内外のガイドラインで推奨される1)-7).抗血小板薬の種類は複数に及び,それぞれに作用機序が異なり併用による強力な抗血栓作用が期待される.
事実,冠動脈形成術後のアスピリンとチエノピリジン系抗血小板薬の併用は,ステントの種類と臨床判断により治療期間が異なるも良好な血管イベント抑制効果が多く報告され8)-11),国内外のガイドラインで推奨される.
一方で,(非心原性)脳梗塞再発予防に関しては国内のガイドライン1)で単剤療法が推奨されるが,併用療法は推奨文に含まれず本文中にこれまでの知見が記載されるにとどまる.図1に国内で行われたBleeding with Antithrombotic Therapy(BAT)前向き研究にみる脳血管障害患者と他の循環器疾患患者に分けた頭蓋内出血発症率を示す12).
この結果からも,脳血管障害患者では単純に抗血小板薬を重ねることを出血合併症の観点から慎まねばならない.
ここでは冠動脈疾患,脳梗塞,末梢動脈疾患での抗血小板薬の併用療法について国内外での知見を交え解説する.
冠動脈疾患への併用療法
冠動脈ステント留置術は今日の経皮冠動脈形成術(PCI)の主流だが,留置後には血小板凝集能が亢進しているために,アスピリン以外の抗血小板薬併用の重要性が高い13).また,アスピリンとチクロピジンの併用で,6ヵ月以内のステント閉塞率が1.6%と低率であること14),ワルファリンによる抗凝固療法よりも有効であることが示され15),今日ではアスピリンとチエノピリジン系抗血小板薬の併用が一般的である.
2007年のAmerican College Cardiology/American Heart Association(AHA/ACC)ガイドライン16)では,急性冠症候群の治療でステント留置が予定される場合には,治療前からのアスピリンに加えクロピドグレルの開始が勧告されている.ステント留置後の併用療法に関して,2009年の国内のガイドライン17)およびAHA/ACCガイドラインでは,ベアメタルステント(BMS)と薬剤溶出性ステント(DES)のいずれでもアスピリンは初期投与(162~325mg/日)に続き維持量を無期限に投与することが勧告され,チエノピリジン系抗血小板薬(チクロピジンかクロピドグレル)の併用投与期間はDES留置例では最低12ヵ月,BMS留置例では最低1ヵ月の投与が推奨される.早期血行再建をせず薬物治療を選択した際も,アスピリンとクロピドグレルの少なくとも1ヵ月間の併用が推奨される16)18).DES留置後にクロピドグレルを1年以上使用する利点は,Clopidogrel for the Reduction of Events During Observation(CREDO) trialやPercutaneous coronary intervention-clopidogrel in unstable angina to prevent recurrent events(PCI-CURE) studyで示されたが9)19),いつまで併用を続けるべきかの評価は定まっていない.j-Cypher Registryの検討ではDES留置から1ヵ月以上経過後でのチエノピリジン系抗血小板薬単独の中断による血栓症発症リスクは低いが,2剤の中止はいかなる時期でもステント血栓症のリスクを高め,多くは1週間以降に血栓症が発生した.観血的処置の際に抗血小板薬を中止した場合でも早期再開の重要性が示唆される.
シロスタゾールとアスピリンの併用は,チクロピジンとアスピリンの併用と同等であるとするメタ解析20)の結果と,亜急性ステント血栓症が増加したとする報告21)があり,その効果は確立していない.
ACC/AHAガイドラインで発症24時間以内にPCIを実施する場合に推奨される血小板糖蛋白(GP)Ⅱb/Ⅲa受容体阻害薬とアスピリンの併用16)は,国内の試験では有用性は証明されず22),国内未承認であることからも使用が困難である.
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。