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血栓症に関するQ&A PART6

8.薬剤 Q66 抗血小板薬の抗血小板作用の可逆性,非可逆性とその臨床的意義について教えてください

田崎淳一堀内久徳

血栓と循環 Vol.19 No.1, 218-220, 2011

Answer
はじめに

 抗血小板薬は,心筋梗塞や脳梗塞といった動脈硬化性疾患の予防に非常に重要な薬剤であり,CAPRIE1)をはじめとする大規模臨床試験によってその有効性が明らかとなっている.また,虚血性心疾患に対する治療として経皮的冠動脈形成術percutaneous coronary intervention(PCI)がスタンダードとなっており,ステント留置後はステント血栓症を予防するために抗血小板薬の内服が必須となる.一方で抗血小板作用が強力になればなるほど,出血性合併症の頻度が増加し,出血イベントや観血的処置の際に,抗血小板薬をいつからどのくらいの期間休薬するのか,またその可逆性について大きな問題となってくる.

アスピリン

 血栓の形成過程において,局所において活性化された血小板では,アラキドン酸からトロンボキサンA2(TXA2)が産生される.TXA2は血小板のアゴニストであり,血小板活性化の増幅に寄与する.アスピリンは血小板のシクロオキシゲナーゼ-1(COX-1)を阻害することで,TXA2の産生を抑制し,血小板凝集を抑制する.
 アスピリンは内服後速やかに上部消化管から吸収され,血中濃度は0.5時間で最高となり,その抗血小板作用は内服後速やかに発現する.アスピリン腸溶錠の場合は,吸収が遅延するため約4時間で最高血中濃度となる.アスピリンの血中消失半減期は0.4時間と短いものの,COX-1を不可逆的に阻害するため,その効果は血小板の寿命である約7~10日間続く.臨床的に出血傾向が問題とならなくなるまでには,すべての血小板が入れ替わる必要はなく,休薬後約3日で出血時間はアスピリン投与前とほぼ同様になる2).

チエノピリジン誘導体

 チクロピジン,クロピドグレル等のチエノピリジン誘導体はプロドラッグであり,腸管から吸収後に肝臓のチトクロームP450(CYP)で酸化され活性代謝物となる.チエノピリジンは,Gi共役型ADP受容体であるP2Y12受容体を阻害することにより血小板凝集を抑制する.アスピリンが血小板活性化の初期反応に重要なTXA2合成を阻害するのに対して,チエノピリジンが阻害するP2Y12経路は,継続的凝集(sustained aggregation)や放出反応の増強(potentiation of platelet secretion)といった一旦活性化された血小板の活性化を持続させることに重要であると考えられている.
 チクロピジンは慢性動脈閉塞症の阻血症状改善や虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作および脳梗塞)に伴う血栓・塞栓の治療薬として長い間用いられてきた.また冠動脈ステント留置術後においてアスピリンと併用することにより,アスピリン単剤に比べてステント留置後の心血管イベントが抑制されることが報告されている3).
 チクロピジンもP2Y12受容体を不可逆に阻害するため,その効果は血小板の寿命である約7~10日間続く.出血時間が投与前とほぼ同様になるのは,チクロピジン単剤では休薬後約5日,アスピリンとの併用では休薬後約7日である.
 クロピドグレルは第二世代のチエノピリジン誘導体で,従来使用されてきたチクロピジンと比べて肝機能障害・血液障害等の副作用が少なく4),ローディング投与により速やかに血小板凝集抑制効果が得られる利点がある.本邦でも2007年よりPCIが適用される急性冠症候群に対して使用可能となった.
 クロピドグレルのローディング内服から抗血小板作用が発現するまでの時間について,当施設で行ったPCI施行患者におけるクロピドグレル血小板凝集抑制効果の検討では,300mg内服後4時間で7割くらいの効果が発現し,血小板凝集抑制率が安定するのに24~48時間要した5).ONSET-OFFSET試験でもクロピドグレルは内服後8~24時間で血小板凝集抑制効果が安定し,中止後約5~7日間で抗血小板作用が減弱することが示されている6).

チカグレロール

 チカグレロールは,新規ADP受容体阻害薬として海外で臨床試験が進行中である.チカグレロールは,P2Y12受容体をCYPの代謝を経ることなく直接阻害するため,クロピドグレルよりも早期に抗血小板作用を発現し,中止後も速やかに血小板凝集能が回復する.前述したONSET-OFFSET試験では,内服開始後約2時間で,抗血小板作用が安定し,中止後約3~5日間で抗血小板作用が減弱することが示されている6).
 ACS患者(約18,000例)に対してチカグレロールとクロピドグレルの心血管イベント抑制効果を比較したPLATO試験では,チカグレロールがACS発症後12ヵ月後の心血管イベント(心血管死亡,心筋梗塞,脳卒中)を16%減少させ,ステント血栓症を33%減少させることが報告されている7).主要出血性イベント(致死的出血+失明に至る眼内出血,Hb3g/dL以上の低下 or 2単位以上の輸血を要する出血)は両群で差はなかったものの,チカグレロールの方が致死的な頭蓋内出血はやや多く,その他の致死的出血はやや少ないという結果であった.また,呼吸困難や徐脈の副作用の発生はチカグレロール群の方が多く,本邦への導入にはその安全性について慎重に経過をみる必要がある.

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