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血栓症に関するQ&A PART6

8.薬剤 Q63 トロンビン阻害薬による心房細動の抗血栓療法の適応とエビデンスについて教えてください

長尾毅彦内山真一郎

血栓と循環 Vol.19 No.1, 210-211, 2011

Answer
心房細動における塞栓症予防の実情

 現在の心原性脳塞栓症の基礎心疾患のほとんどは非リウマチ性心房細動が占めている.心房細動自体は心疾患としては軽症の部類に入り,脈の乱れ以外には自覚症状も乏しいため,患者自身,一般医のみならず,循環器専門医ですら軽視する傾向にあることは否めない.
 脳卒中専門医であるわれわれが日頃遭遇する,心房細動に起因する心原性脳塞栓症の大半は発症まで何ら塞栓症予防を施されていないのが現状である.一方,非常に数の多い心房細動症例のうち,塞栓症を発症する割合は年間数%であり,心房細動側からみるとごく一部にすぎない.この意識のギャップに加えて,長年塞栓症予防の第一選択とされているワルファリンによる抗凝固療法の管理の煩雑さが加わって,なかなか心房細動症例への一次予防療法が普及してこなかった.管理の煩雑さを避けて,抗凝固療法ではなくアスピリンなどの抗血小板薬を投与して予防療法の代用とする医師も従来から多かったが,わが国での大規模研究において,その予防効果は明らかにはならなかった1).そもそも拡張した左心房内で形成される心内血栓は深部静脈血栓症類似のフィブリン血栓主体のものと想定され,抗血小板薬による予防効果は理論的には期待できないのである.

新たな抗凝固薬の開発とそのエビデンス

 50年あまりワルファリンの代替薬が開発できなかった抗凝固療法分野は,20世紀末から血液凝固経路の最終部分の凝固因子であるトロンビン(活性化第Ⅱ因子)や活性化第Ⅹ因子(Ⅹa)の作用を阻害する分子標的薬が開発されたことで急速に脚光を浴びるようになった.
 その先鞭を切って臨床試験が行われた経口抗トロンビン薬である ximelagatran は,ワルファリンと同等の塞栓症予防効果と,少ない出血合併症発症率を実証し2),実用化に大きな期待が寄せられたが,肝機能障害の発症が問題視されて発売直前に開発中止となり,われわれを失望させたことは記憶に新しい.
 続いて臨床試験が行われたのが同じ抗トロンビン薬のdabigartanである.心房細動症例に対する塞栓症予防の大規模国際臨床試験であるRE-LY試験の結果は2009年夏に発表され大きな話題を呼んだ3)4).ワルファリンの通常治療と比較して,150mg 1日2回の標準用量群ではワルファリンより有意に優れた効果を示し,110mg 1日2回の低用量群ではワルファリンと同等の効果を示したのである.危惧されていた肝機能障害も低率であったため,ここに至って30年近く新しい治療法のなかった抗凝固療法領域に画期的な新薬が加わることになった.

dabigatranの特徴と適応

 複数の凝固因子を阻害し凝固経路を全般に抑制するワルファリンと異なり,新たに開発されている新規抗凝固薬は前述したように単一の凝固因子阻害薬である.これら薬剤の最大の特徴は,相互作用が極めて少ないことであるといえる.納豆に代表されるビタミンKを多く含んだ食事の影響もなく,効果増強,減弱をもたらす薬剤もほとんどない.したがって,個体差や時期による効果の動揺が極めて少ない.PT-INR測定による用量設定,微調整が不要であるとされるのはこのためで,抗血小板薬のように全症例で同一の用量で長期間の投与が可能である.長年ワルファリンを投与していると採血をしないこと自体に強い不安を感じる医師,患者もいるかと想像するが,その誤解を解くためには上記のような全く新しい作用機序であることを理解することが必要であろう.
 もう1つワルファリンと異なる感覚で対応する必要がある点はコンプライアンスである.新規抗凝固薬はいずれも半減期が半日前後とワルファリンと比較して極めて短い.1日2回ないし1回の用法をきちんと遵守しないと,急速に抗凝固作用が減弱してしまうことを認識する必要がある.出血合併症の際の内服指導も同様に,安易な減量,中断は塞栓症の誘発のリスクが高いことに十分注意する.ワルファリンを内服している場合には,1日程度の減量,中断では大きな事故につながることは少なかったが,今後は服薬コンプライアンスに留意していただきたい.
 Dabigatranは心房細動症例のうち本邦のガイドラインにおいて抗凝固療法の絶対的適応となる,CHADS2スコア2点以上の症例が適応となる.適応症例に関しては,ワルファリンと全く同一と判断して差し支えない.したがってスコア1点の症例についても,担当医の判断で抗凝固療法が必要と判断すれば適応可能である.通常は75mgカプセルを1日4個,2回に分けて内服する.
 重度の腎機能障害およびワルファリンの目標治療域が引き下げられる70歳以上の高齢者,消化管出血の既往のある症例では1日 110mg 2回への減量を考慮するとされている.
 内服薬との相互作用については上述したようにほとんど問題ないが,唯一抗真菌薬であるイトラコナゾールは併用禁忌であり,ベラパミル,アミオダロンなどのP糖蛋白阻害薬は併用注意とされている.もちろん他の抗血栓薬との併用にも十分に注意する必要がある.

その他の新規抗凝固薬

 Dabigatranを追って,数種の抗Ⅹa阻害薬が臨床開発の最終段階に入っている.抗Ⅹa薬であるribaroxabanによる心房細動症例に対する大規模臨床試験ROCKET-AF試験は2010年秋に公表され,ワルファリンと同等の有効性を示したと報告された.わが国では用量をやや減じた別のプルトコールで治験が行われ(J-ROCKET-AF試験),2011年春に発表予定であるが,すでに深部静脈血栓症領域では海外で承認を受けている.その他apixabanの臨床研究もかなりの進捗状況となっており,国産の抗Ⅹa薬であるedoxaban,darexabanは深部静脈血栓症での国内承認を先行させて,開発が進んでいる.

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