Answer 心房細動における塞栓症予防の実情  現在の心原性脳塞栓症の基礎心疾患のほとんどは非リウマチ性心房細動が占めている.心房細動自体は心疾患としては軽症の部類に入り,脈の乱れ以外には自覚症状も乏しいため,患者自身,一般医のみならず,循環器専門医ですら軽視する傾向にあることは否めない.  脳卒中専門医であるわれわれが日頃遭遇する,心房細動に起因する心原性脳塞栓症の大半は発症まで何ら塞栓症予防を施されていないのが現状である.一方,非常に数の多い心房細動症例のうち,塞栓症を発症する割合は年間数%であり,心房細動側からみるとごく一部にすぎない.この意識のギャップに加えて,長年塞栓症予防の第一選択とされているワルファリンによる抗凝固療法の管理の煩雑さが加わって,なかなか心房細動症例への一次予防療法が普及してこなかった.管理の煩雑さを避けて,抗凝固療法ではなくアスピリンなどの抗血小板薬を投与して予防療法の代用とする医師も従来から多かったが,わが国での大規模研究において,その予防効果は明らかにはならなかった1).そもそも拡張した左心房内で形成される心内血栓は深部静脈血栓症類似のフィブリン血栓主体のものと想定され,抗血小板薬による予防効果は理論的には期待できないのである.