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血栓症に関するQ&A PART6

8.薬剤 Q61 クロピドグレルの作用のばらつきの原因について教えてください

田崎淳一堀内久徳

血栓と循環 Vol.19 No.1, 204-206, 2011

Answer
はじめに

 クロピドグレルは第二世代のチエノピリジン誘導体で,従来使用されてきたチクロピジンと比べて肝機能障害・血液障害等の副作用が少なく1),ローディング投与により速やかに血小板凝集抑制効果が得られるのが利点である.チエノピリジン誘導体はプロドラッグであり,腸管から吸収後に肝臓のチトクロームP450(CYP)で酸化され活性代謝物となる.活性代謝物は,Gi共役型ADP受容体であるP2Y12受容体を不可逆に阻害することにより血小板凝集を抑制する.

 本邦でも,2007年より経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention:PCI)が適用される急性冠症候群に対してクロピドグレルが使用可能となった.表題のようにクロピドグレルについては,その反応性の個体差が問題視されており,クロピドグレル抵抗性が存在することが知られている.クロピドグレル抵抗性には,クロピドグレルの吸収不良や薬物相互作用,急性冠症候群,糖尿病,DM,年齢といった臨床的要因2),薬物代謝酵素であるCYPやチエノピリジンのターゲットであるP2Y12受容体の遺伝的要因,および血小板のターンオーバー亢進やP2Y12経路のアップレギュレーションといった細胞的要因が関与すると考えられている3).
 これらの要因の中でもCYP2C19の遺伝子多型がクロピドグレルの抗血小板作用に大きく影響していることが報告されている4).クロピドグレルは肝臓にてCYPを介して二段階に代謝され,その85%は不活性代謝物となり,わずか15%のみが薬理活性を発揮する活性代謝物となる.そのいずれの代謝にもCYPファミリーの1つであるCYP2C19が大きく関与している.CYP2C19の遺伝子多型は多数報告されているが,酵素活性が減弱するのは,CYP2C19*2(681 G>A)と,CYP2C19*3(636 G>A)であり,日本人においてこの機能低下型遺伝子多型が多く存在する(*2 26.7% *3 12.8%)ことが報告されている5)6).また酵素活性が亢進するのはCYP2C19*17であり,クロピドグレルの抗血小板作用が増強するため,心血管にイベントの発生が少ない可能性があり7),また出血性イベントが多いことが報告されている8).
 遺伝子は父方,母方から由来し一対となっているため,それぞれの遺伝子にホモ接合体とヘテロ接合体が存在する.CYP2C19の遺伝子多型に基づいて,その表現型として野生型(EM:extensive metabolizer, *1/*1),中間型(IM:intermediate metabolizer, *1/*2, *1/*3),機能欠損型(PM:poor metabolizer *2/*2, *3/*3, *2/*3)が存在する.CYP2C19機能低下型遺伝子多型群では,クロピドグレル内服後に薬効のある活性代謝物へと変換されないため,クロピドグレルの抗血小板作用が減弱していることが明らかとなっている9)10).われわれの施設で行った日本人を対象とした研究で(n=25)も,野生型はわずか44%であり,残りの32%が中間型,24%が機能欠損型遺伝子多型であった10).また,中間型および機能欠損型遺伝子多型群では,野生型と比較しクロピドグレルの抗血小板作用が減弱していた(図1).

 Megaらは,健常人162人を対象としたCYP2C19遺伝子解析とクロピドグレルの抗血小板作用の検討にて,約30%に機能低下型遺伝子多型が存在し,遺伝子多型群では実際に血中のクロピドグレル活性代謝物の濃度が低く,抗血小板作用が弱いことを明らかにした11).また,クロピドグレルを内服しPCIにて治療された急性冠症候群の患者1,477名を対象としCYP2C19遺伝子解析を行ったところ,機能低下型遺伝子多型群において心血管イベント(心血管死亡,心筋梗塞,脳梗塞)の発症が53%多く[HR 1.53;(1.07 to 2.19)p=0.01],ステント血栓症も有意に多い[HR 3.09(1.19 to 8.00)p=0.02]ことが明らかとなった11).同様にSimonらは,2,208名のPCIを施行された急性心筋梗塞患者を対象とし,CYP2C19活性低下型遺伝子多型を持つ群では,野生型に比べて死亡,心筋梗塞,脳梗塞といった心血管イベントの発生が多いことを報告している12).

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