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血栓症に関するQ&A PART6

7.腎疾患 Q56 膜性腎症に合併する血栓症の成因と予防法について教えてください

糟野健司吉田治義

血栓と循環 Vol.19 No.1, 186-188, 2011

Answer
はじめに

 膜性腎症に特異的な血栓症の成因は明らかではないが,他のネフローゼ疾患に比べ高齢者に発症することが多いため,好発年齢が高いことも成因の1つと考えられる.膜性腎症を含むネフローゼ症候群における血栓症については以下のように複数の成因の関与が考えられているが,トロンボキサンA2系の亢進による血小板活性化の機序が有力視されている.

血小板の活性化

 ネフローゼ症候群では血小板凝固能の亢進と低アルブミンの程度が相関することが報告されている1).血小板活性化の指標であるβ-thromboglobulin(βTG)とplatelet factor 4(PF4)の両者が高いことが知られており,ネフローゼ症候群で血小板が活性化しているとされている.ネフローゼ症候群における血栓症の成因としては主に以下の機序が有力視されている.血管が障害を受けると周囲の内皮細胞からアラキドン酸が放出される.アラキドン酸は血小板内のシクロオキシゲナーゼ1により血小板活性化因子であるトロンボキサンA2に変換される.正常ではアラキドン酸は血中アルブミンと結合するが,ネフローゼでは低アルブミン血症のため,アルブミン結合しないアラキドン酸が多くなり,結果としてトロンボキサンA2系の亢進を来す2)3).この他,ネフローゼ症候群では血小板活性化因子である血中P-selectin濃度が高いことが報告されている.しかし,癌患者4)や血栓症の既往のある患者5)では血中P-selectin濃度と血栓症リスク上昇が相関するものの,ネフローゼ症候群の患者では報告例がないことから直接の因果関係は確定していない.

凝固系の亢進

 第Ⅸ因子,第ⅩⅠ因子,第ⅩⅡ因子はネフローゼ症候群で減少していることが知られている6)7).一方,Dダイマー,CRP,フィブリノゲン,第Ⅱ因子,第Ⅴ因子,第Ⅶ因子,第Ⅷ因子,第Ⅹ因子,ⅤW因子はネフローゼ症候群で上昇しており,第Ⅴ因子,第Ⅷ因子の増加はアルブミンの低下と相関している8)9).減少については蛋白尿による喪失が,また上昇については合成が尿蛋白による喪失を凌駕することが原因と説明されている.一般住民を対象にした場合には,第Ⅶ因子,第Ⅷ因子,第Ⅸ因子,第ⅩⅠ因子,フィブリノゲン,Dダイマー,が血栓症発症のリスクと相関することが報告されている.しかしながら凝固因子はもともと過剰に存在するため,多少の増減が全身性の血栓症の発症に関与するかどうかは懐疑的である.これらの凝固因子異常がネフローゼにおける血栓症へ及ぼす影響については報告がない.

抗凝固系の低下

 ネフローゼ症候群ではアンチスロンビンが低下していることが知られている10).トロンビン活性を測定する鋭敏な指標としてフィブリノペプチドA(FPA),トロンビン-アンチトロンビンⅢ複合体(TAT),プロトロンビン(F1+2)がある.これら3つすべてがネフローゼ症候群で上昇していることが報告されており,ネフローゼ症候群ではトロンビン活性が亢進している11).しかし,アンチスロンビンの低下とネフローゼ症候群の血栓症リスクとの間の直接の相関については,相関ありとする報告と12)13)相関なしとする報告14)がある.またプロテインCとプロテインSの蛋白量がネフローゼ症候群で上昇しているとの報告もあるが,活性については両者ともネフローゼ症候群で変化がないとされている.プロテインC,プロテインSと血栓症リスクとの関係については報告がなく不明である15)16).

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