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血栓症に関するQ&A PART6

7.腎疾患 Q53 CKDの抗血栓療法のエビデンス―腎障害進展抑制と心血管疾患発症抑制について教えてください

菅野義彦竹中恒夫鈴木洋通

血栓と循環 Vol.19 No.1, 178-180, 2011

Answer
 抗血栓療法には一般に抗血小板療法,抗凝固療法,線溶療法の三者が含まれるが,腎疾患の領域では主として前二者が用いられる.これらについては以前にも執筆の機会を与えられたが1)2),2005年の時点では自験例を含めて質の高いエビデンスはないと結論せざるをえなかった.

 腎疾患進展抑制については,その後も同様の事態が続いている.慢性糸球体腎炎の中でも多くをしめるIgA腎症について2006年にメタ解析が発表されている.ジピリダモールやジラゼップ等の抗血小板薬が蛋白尿についてはハザード比0.61で,また腎機能については0.74で有意に改善すると報告されている3).しかしわれわれと同様に,やはり症例数も少ないなど元になった研究自体が質の高いものでなく,さらなる検討が必要と結論づけている.また21世紀に入りわが国でも,糖尿病腎症が透析導入の原因疾患として最多となり,研究対象としての重要性も増している.2008年にセロトニン受容体拮抗薬の投与が糖尿病腎症の蛋白尿を減少させ,尿細管間質病変を改善させる可能性があることが報告された4).しかし症例数が40例程度とやはり少なく,また閉塞性動脈硬化症を合併している患者に限った研究であり,糖尿病腎症全例に当てはまるかは不明で,今後のさらなる検討が必要と結論づけている.その他,最近になりワルファリンが接着因子を介して慢性腎臓病(CKD)の進行を抑制するなどの多くの研究がなされている.しかし,現時点での結論も以前のものと同様で,腎障害抑制について抗血栓療法は非常に有望と思われるが,いまだ質の高い臨床的なエビデンスが出てきていないとせざるをえない.
 腎疾患のカテゴリーが従来の慢性腎不全からCKDに変更され,世界各国から報告される臨床研究の対象者が標準化されたため,エビデンスが得られやすい環境が整った.これまで質の高いエビデンスがなかったこの領域にもようやくいくつかの研究が,特に心血管疾患抑制について行なわれている.
 抗血小板療法として現時点で最も広く用いられているのはアスピリンであるが,これを用いて1990年代に行われたHOT(Hypertension Optimal Treatment)スタディにおけるCKD患者だけを対象としたサブ解析(HOT post-hoc subgroup analysis)が報告された5).HOTスタディは高血圧患者において降圧薬にアスピリンを追加投与した場合に,心血管イベントおよび総死亡の発生を抑制する効果があることを示したが,しかし出血のリスクも高くこれを上回る利益は得られないという結論となった6).このうちCKDを合併した患者を対象として登録時の血清クレアチニン値が得られた18,597例に対して解析が行われた.eGFRによって60mL/分以上(14,978例),45-59mL/分(3,083例),45mL/分未満(536例)の三群に分けられた患者は平均3.8年間追跡調査をされた.一次エンドポイントは心筋梗塞,脳卒中,心血管死亡,全死亡の複合エンドポイントであり,いずれの項目もeGFRが低ければ低いほど発生率が高くなったが,アスピリン服用によりこの抑制が認められ,それはeGFRが低い群で著しかった(図1).

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